雨音に紛れる曖昧な関係性

 過去に偶然出会っただけの女性、雨音を聞き分けることができるという彼女の、その思い出を語る人のお話。

 独特の雰囲気漂う、現代ものの掌編です。
 雨の中を走る車内の風景に、とある晩の小さな会話、そしてそれを思い出として語るいま現在の彼の姿と、印象的なシーンがコラージュ的に切り替わっていくような感覚が独特です。

 一応は男女の対話劇であり、紹介文の「ちょっとだけ性的な描写あり」というのもその通りなのですけれど、少なくとも恋愛ものではないところが特徴的。
 重たかったり激しかったりする感情の動きを伴わず、しかしドライというにはどことなく湿っぽさを感じる、不確かな関係性のようなものを感じるお話でした。