第二義勇艦隊
「何が起こったんだ」
突然、ロシア巡洋艦が光り爆発を起こした。
まばゆい光に目が幻惑されたが、ロシアの巡洋艦は確かに被弾し火災を起こしていた。
「反対側より艦艇が接近してきます」
現れたのは前後に一基ずつ砲塔を備えた戦艦だった。
だが、見慣れている連合艦隊の戦艦よりも一回りほど小型に見えた。
マストに翻っていた旗も旭日旗では無い、白地に両端が白い二曳きの旗だった。
「海援隊です! 海援隊の土佐です!」
海援隊がイギリスで建造中だったチリ海軍の小型戦艦を購入し土佐と名付けた戦艦だった。
チリはアルゼンチンとパタゴニアの領有を巡って争っており、互いに武力で制圧するべく軍備拡張競争を起こしており、開戦直前の状況にまで切迫していた。
これを憂いたのはイギリスだった。
アルゼンチンもチリもイギリス商品を購入するお得意様であり、ラプラタ川を通じてアルゼンチンの穀物とチリの硝酸塩を輸入していた。
もし両国で戦争が起きれば、それらの貿易は途絶えてしまう。
そのためイギリス政府は仲アルゼンチンとチリの介に入り協定を結ばせた。
その陰で尽力したのが海援隊だった。
両国の和解と産業振興さらに軍備削減を提案した。
海援隊が両国から購入あるいは発注した軍艦を海援隊が購入し、その資金を元に殖産興業を行うというものだった。
購入先が英国もしくは海援隊に限られるという条件があったが終わりの見えない無鉄砲な軍備拡張を継続する、そしてその先の戦争をする気がなかった両国は飛びつき、協定を結んだ。
こうして海援隊はチリ海軍からイギリスに注文していたコンスティトゥシオン級戦艦を購入した。
もし日本が購入しなければロシアが購入を目論んでいたためイギリスが介入しスウィフトシュアとして就役させる予定だった。
寸前のところでロシアの戦力増強を防ぎ、海援隊所属だが日本は自らの戦力を高めた。
購入された戦艦土佐は第二義勇艦隊に編入され対馬海峡防衛に使われていた。
土佐の詳細は
https://kakuyomu.jp/works/16816700428609473412/episodes/16816927860087707024
そのためいち早く連絡船の窮地に駆けつけたのだ。
小型とはいえ土佐は戦艦、自分たちの八インチ砲より大きな一〇インチ砲を搭載した艦を相手では勝敗は見えておりロシア巡洋艦は直ちに撤退を開始した。
しかし、彼らの行き手を阻むように新たな艦影が現れ砲撃を開始した。
元アルゼンチン海軍所属の装甲巡洋艦ガリバルディ、現海援隊所属の装甲巡洋艦鈴谷である。
アルゼンチンはパタゴニアの領有を巡ってチリとライバル関係にあった。
そのため互いに建艦競争を行っていたおりアルゼンチンがイタリアに発注建造されたのがガルバルディ級装甲巡洋艦だった。
だが英国と海援隊の仲介により締結された和解により軍備削減が行われ海援隊に売られた一隻だった。
元々南米の軍拡競争時代、アルゼンチンがイタリアで建造されてジュゼッペ・ガルバルディ級先行グループ七隻の内四隻を購入し運用していた。
この艦の性能に満足したアルゼンチン海軍は新たに二隻注文していたが、協定調印により日本海軍に売却され日進級装甲巡洋艦として日本海軍に売却されていた。
残りのアルゼンチン海軍で運用されていた装甲巡洋艦も軍縮条約によって廃棄されることになり海援隊に売却され、鈴谷級装甲巡洋艦として運用されていた。
鈴谷級装甲巡洋艦の詳細は
https://kakuyomu.jp/works/16816700428609473412/episodes/16816927860088392179
もしかしたら戦火を交えていたかもしれない軍艦二隻が同じ指揮下に入り共同で敵に当たるとは現実は小説より奇なりである。
いずれにせよロシア艦隊は海援隊の艦艇により包囲されつつあった。
同じ装甲巡洋艦であったが、通商破壊を目的に建造され洋上での活動期間を長くする為に作られたロシアの装甲巡洋艦に対して、敵艦破壊、準戦艦として建造された海援隊の装甲巡洋艦では戦闘力が違った。
しかも鈴谷は前部の砲塔は一〇インチ単装砲であり砲力でロシア巡洋艦を圧倒している。
熾烈な砲撃をロシア艦隊に向けてはなった。
だがロシア艦隊も劣勢ながらも反撃し血路を開いて脱出した。
「助かったのか」
連絡船の甲板に安堵のため息が上がった。
それは事実であり、ロシア艦は海援隊から逃れるために北に向かって北上を続けていた。
「しばらくは来ないで欲しいな」
柴崎は独り言を言った。
この後も後続部隊や増援の船が通るのであり航路の安全が確保されなければ撃沈されてしまい大陸に派遣された部隊は孤立し戦う前に全滅してしまう。
「海援隊には頑張って貰いたいものだ」
日本アルプスとアラスカの測量に自分を向かわせてもらい、中佐の階級章を与えてくれた恩人の顔、海援隊の才谷鯉之助を思い浮かべながら柴崎中佐は言った。
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