第5話 第1回異世界攻略会議

 Q. 山を散歩中、熊に遭遇してしまいました。どうする?

 A. 熊から目を離さずに、ゆっくりと後ろに下がりましょう。


 Q. 家の中にGが大量繁殖してしまいました。どうする?

 A. 毒団子かバルサンを焚いて、1匹残らず根絶やしにしましょう。


 Q. 下半身を露出した変質者が、こちらにやってきた時。

 A. 金的を狙い、蹴り上げましょう。


 このように大抵のことは、それが正解、不正解に問わずテンプレというものが存在している。これらは先人たちの経験から生まれてくるものが大半である。


 では、最後の質問です。



 Q. 異世界転生しました。どうする?

 A.



 ***



「というわけで、第一回異世界攻略会議を開催します」

「…………え゛?」


 すでに歯磨きを済ませ、寝る気満々でだったルリは驚愕の表情でこちらを見つめている。


「私、眠たいんだけど」

「そうだな、俺も眠たい」


「…今日はたくさん歩いたから、とっても疲れてるんだけど」

「そうだな、たぶん俺の方がとっても疲れてる」


「……今日じゃなきゃダメ?」

「ダメ」



 部屋に一時の静寂が訪れる。


 でも、今日でなくてはダメなのだ。もし、会議を明日にしてしまったら


 ”昨日は大変だったし、今日は部屋で体を休めようか”

 ”そうね! まだお金はあるし、今日はゆっくりしましょう!”


 という事態になり、ズルズルと、そしてだらだらと怠惰な日々を過ごしていくに違いない。自慢じゃないが、俺たちの自制心の弱さは伊達ではない。というか、生活を自制できなかった結果が、この異世界転生へ繋がったくらいだ。ここは引き下がるわけにはいかない。明日やろうは、馬鹿やろうなのである。



 ルリは一息ついた後、窓際の椅子に座った。


「はぁーーー、分かったわよ。でも、早めに済ませてよ」


「よし! それじゃあ、第一回異世界攻略会議を開催する!」


 パチパチパチパチ


 ルリの乾いた拍手が部屋に響く。


「最初に質問だ。今俺たちが最も必要としているものは何だ?」

「お金! 食べ物! ネット!」

「違う! 全く違うぞMs.ノエリー!」

「ノエリー!? コウ、どうしちゃったの?」

「小野エリでノエリーだ! いい名前だろ。あと、私のことはコウではなくボスと呼ぶように」

「……イエス、ボス?」

「そうだ! それでいい、グッジョブMs.ノエリー!」


 これだ。これがやりたかったのだ。自分が上官となり、部下の間違いを指摘する。おとこだったら一度は憧れるシチュエーションであろう。漢は誰しもビックボスに憧れるものだ。


「よし! では質問の答えを発表しよう。正解は『情報』だ!」

「情報?」

「そうだ! 俺たちはまだこの世界について知らなすぎる。物の相場やお金の稼ぎ方、世界の常識。知るべきことはたくさんある。よって、明日の予定は情報収集にしようと思う。質問、意見のあるやつは手を挙げよ!」


すると、ルリは勢い良く手を挙げた。


「質問ですボス! 人見知りなので、他人に話しかけられません。どうすればいいでしょうか!」

「いい質問だMs.ノエリー。実はこの宿に来る前、すれ違う人たちの会話を聞いたんだが、町の北側に図書館あるらしい。お前にはそこで文献調査を頼みたい。いい報告を期待している」


「イエス、ボス!! イエス、マイロード!!」


最初は乗り気でなかったルリも、今ではノリノリで敬礼する始末である。これが深夜テンションというやつか。恐ろしい。


「これをもって、第一回異世界攻略会議を終了する。明日に備えて、睡眠はしっかり取るように。解散!」



こうして高坂光プレゼンツ、深夜の最高にイカした会議は幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お客様の笑顔が最大の報酬です 西田河 @niaidagawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ