第4話 お部屋探しは

「「はぁ~、疲れた……」」


この世界に来てから約2時間。体はすでに満身創痍まんしんそういであった。


村に着くまでは、ルンルン、ウキウキ、ワッショイワッショイだった俺らも、強い日差しの中を1時間半も歩いているのだ。村に着き、緊張感の糸が切れたのか、突然強い疲労感が襲ってきた。


この村に入る前は、何もない草原のなかポツンとある村にということもあり、あまり期待はしていなかった。だが、入ってみると村と呼ぶには、いささか発展しすぎているように感じた。家は全て木造とはいえ、古臭い感じは無いし、道路も土でできているが、整備は行き届いている。畑が多く点在しているとはいえ、規模感で言えば普通に町である。これなら、宿の1つや2つはあるだろう。


しかし、時刻はすでに夕方を回っている。一刻も早く宿を見つけるため、少し早歩きで村の中心へ向かって進む。


「コウ~、宿はまだ~? もう疲れた、寝たい、ネトゲし~た~い~」

「うるさいなぁ、もうちょっとで村の中心だから頑張れ。あと、ネトゲはたぶんないぞ」

「ぶーーーー」

「逆に考えてみろ。この世界は異世界。つまり、今俺たちはネトゲの中にいると考えたら、やる気もでてくるんじゃないか?」



「…………確かに」


そう呟いたルリは一人でブツブツと考え始めた。安直な煽りだったが、ルリには効果覿面こうかてきめんであったらしい。チョロい、チョロすぎるぞ。そのうち、幸運のツボ、数珠、水の三点セットをニコニコ笑顔で買ってくる未来が目に浮かぶようである。


心の中でお財布の紐をきゅっと締める。


それから5分は歩いただろうか。道を行き交う人々も段々と多く、賑やかになってきた。そして、あと少しで村の中心に着くだろうという時、一つの建物が目に入った。


それは新しい建物の多いこの街にしては珍しい、年季の入った宿であった。


村に入ってから気が付いたのだが、それぞれのポケットの中には財布と引き換えに、見覚えのない巾着きんちゃくが入っており、さらにその中には銀貨5枚が入っていた。二人合わせて銀貨10枚。これが自分たちの全財産である。


古い宿ということもあり、サービスには期待できないが、金のない俺たちにはちょうどいいだろう。今夜はここに泊まるか。


「ふぎゃ」


後ろから潰れたカエルような声が聞こえる。


「ちょ、ちょっと! 急に止まるんじゃないわよ!」


そのカエルは前も見ずに考え事をしていたらしく、顔を真っ赤にして怒っている。


「そんなことより宿見つけたから、早くいくぞ」

「宿!! 許してあげるから、早く行くわよ!」


カエル、ではなくエリは俺の手を取り、走り出した。ぐんぐんと引っ張られる形で宿に近づく。


そして、そのまま中に………




入ることはなかった。


エリの足は宿に近づくにつれて遅くなり、とうとう宿の扉の前で止まっていた。


「どうしたんだ? 入らないのか?」



「………コウが入ってよ」


こいつはこういう奴だった。小野ルリとは、ツンデレ気取りで、お調子者で、騙されやすい人見知りであった。


こんなことをしていては日が暮れてしまう。というか、もう暮れかけている。しょうがないので、後ろでモジモジしているエリの代わりにドアを開け、先に中に入った。


「すいませーん、一泊したいんですけ

「いらっしゃいませです!!」


カウンターの方を見ると、そこには赤い髪の少女が笑顔で立っていた。見た目はまだ10歳くらいで、さっきの元気のいい挨拶も彼女のものだろう。少女はエプロンを着ており、この宿の従業員で間違いないだろう。


「あのーー、一泊おいくらですか?」


ジーーーーーーー


先ほどのような快活な返事はなく、少女は見極めるような、見定めるような目線を送り続ける。


「あ、あのーー」

「銀貨4枚になりますです!!」


銀貨4枚か。払えない額ではないが、この世界の相場が分からない以上、妥協はするべきではない。


「もう少し安くなりませんか?」

「じゃあ、銀貨3枚でもいいです!!」

「あとちょっとだけ、あとちょっとだけ安く」

「銀貨2枚!! これ以上は下げられないです!!」

「もう一声! もう一声だけ!」


傍から見ると、小学生相手に値切り交渉をする大学生という、酷い絵面になるがこれも生きるためである。


「んーーーーーー、もってけ泥棒!! 銀貨1枚でいいです!!」

「それ買ったーーーーーーー!!」



うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!



表情、ガッツポーズ、雄叫び。俺は体のすべてを用いて、喜びを表現した。


これが勝利の味。これが異世界。まったく、最高じゃないか。



こうして、異世界での最初の戦いは、勝利で幕を下ろした。




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