第3話 森の中

 チューーンチュンチュン チューーンチュンチュン


 雀のような、ちょっと違うような鳥のさえずりが聞こえる。


 目を開けるとそこは、森の中であった。天気は快晴。最高の転生日和である。せっかく森の中にいるのだ。キャンプなんてどうだろうか? ゆるーくキャンプなどをすれば、今置かれている状況も冷静に見つめ直すことができ、今後の予定も立てやすいだろう。そうと決まれば、善は急げだ。


「なあ、ルリ! ……ルリ?」


 周りを見ると、ルリは立ったまま下を向いていた。


 まさか、今回もだんまりモードなのか? そうなのか? 流石に2話続けてほとんどしゃべらないのは、ヒロインとして、どうかと思う。今回はゴトーもいないのだ。お前がしゃべらなくて、誰がしゃべるというのだ。


 俺はルリの両肩をつかみ、軽く揺らした。


「おーーい、ルリさーーん。生きてますかーー。反応してもらっていいですかーー」


「………コ」

「コ?」

「………コウ」

「コウ?」


「コウーーー! どうすんのよーー。私たち死んだの!? 死んじゃったの!? これからどう生きていけばいーいーのーよーーー」


 ルリは俺の両肩をつかみ返し、頭がグワングワン揺れるくらい揺らしてきた。


「それをこれから考えるんだーろっ」


 ピンッ


「あうっ」


 仕方なく、デコピンでルリの暴走をいさめる。まあ荒れているとはいえ、暴れる元気ぐらいはあるようで安心した。逆にルリが暴走してくれたおかげで、冷静になれたのも、また事実である。ここはポジティブシンキングでいこう。


 冷静になった頭で考えると、先ほどのキャンプ案などは当然却下であった。なんせ全く知らない世界の全く知らない森である。何が出てくるか分かったもんじゃない。


 というわけで、まずは町や村を探すとしよう。何か手掛かりがないか近くを捜索する。すると、お目当てのものはすぐに見つかった。


『ここから5キロ先、オチット村』


 木の看板であった。恐らく、輪廻転生組合の奴らが設置したのだろう。こんな看板を立てるぐらいなら、そのまま村の前に放り出してくれればよかったのに…。


「で、どうするのよ?」


 まだ少しオドオドしているものの、多少は落ち着くを取り戻した様子のルリが聞いてくる。方角も分からないため、いつ日が暮れるかも分からない。出発するなら早いに越したことはないだろう。


「……まあ、歩くしかないか」


 こうして、俺らはオチット村に向けて歩き出した。



 ***


 1時間後


「あぢーーーー」


「別に…… 喉が乾いてなんか…… ないんだからね……」


 大学生になってからというもの、移動はバス(なお行ったのは数回のみ)、体育は必修でないのでスルー(運動なんて論外)。そんな生活を続けた結果がこれだ。自業自得である。そして、なにより道が悪い。進む先々に木の根っこやフカフカの落葉があり、とても歩きづらい。


 黙って歩いていても暇だったので、少し気になっていたことをルリに尋ねる。


「なぁ、ルリ。聞いていいか?」

「……何よ。疲れてるんだから、手短にね」

「ゴトーが書いた紙によると、この更生プログラムを受けている俺らはゴミ人間ってことになるよな」

「……そうね」

「俺のことはまだ分かる。親の金で通ってる大学にほとんど行ってないわけだし、バイトもしてないから、社会への貢献度も0だ。ただ、お前は春から専門学校行ってたんじゃなかったのか?」


 一瞬、氷のように固まったルリだが、コホンッと咳払いをして、


「ま、まわりと学校のレベルが低すぎてね。私に付いて来れそうな人間がいなかったからやめたわ!」


 そうか、学校に馴染めず辞めたと


「じゃあ、二か月前に始めたファミレスの接客のバイトは?」

「それは…… そ、そうよ、客が『接客態度が悪い』とか言ってきたから、こっちから辞めてやったわ」


 そうか、ツンデレが発動して客にキレられたから、怖くて辞めたと


「じゃあ、学校とバイトが忙しくて、昼間は連絡つかないって言ってたのは?」

「…………昼夜逆転して、昼間は寝てるからです」


 よかった、お前もちゃんとしたゴミ人間だったのか。もし、ルリが俺の巻き添えをくらってこの世界に連れてこられたなら、申し訳ないことをしたと思っていた。しかし、輪廻転生組合の判断は適切だったようだ。これからもゴミ同士これからも仲良くしよな!


 俺とルリの絆がすこし深まったところで、突然目の前の景色が明るくなる。


 森を抜けた先には、見渡す限りの草原が広がっていた。牛や羊、ハイジがいないのが不思議なくらいの景色である。そして、その先にはお目当てである村らしきものも、確認できた。


「すごい景色ね、コウ!」

「あぁ、日本では地平線の見える草原なんてなかったもんな!」


 この世界に来てからというもの、ずっと森の中を歩いていたのだ。草原の解放感と村の発見により、俺らのテンションは爆上がりであった。


 足取りは軽く、ルンルンで村に向かう。


 そして、出発してから1時間半。ようやくお目当ての『オチット村』にたどり着いたのだった。





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