殺人物件

なめなめ

第1話 殺人物件

 夢にまで見た一人暮らし! 

 地方から出て来たオレは、都内の大学に通うために自分の部屋を借りることを決めていた!


 ただ出身の田舎とは違い、都会の家賃は相当に高いと聞いていたので不安はある……っが、適当に入った不動産屋で運良く格安の物件を見つけることができていた。


 それは何と、4DKの借家で家賃が24000円! しかも、建物自体もそう古くなくて交通の便も良いとする好条件……っが、同時にそのあまりの条件ぶりに妙な怪しさも醸し出していたので……


「スミマセン。どうして、こんな好条件の物件が今まで誰にも借りられてなかったんですか?」


 わりかしストレートな質問をぶつけてみる。すると対応していた不動産屋の主人からは案の定というか、予想通りの返答が返って来る。


 「そ、その……殺人です……」


 不動産屋は奥歯にモノが挟まったような言い方だったが、それでも『殺人』という言葉はハッキリと聞き取れた。まぁ正直のところ、「そうかもな」くらいの予想はしていたけど。


「それにしても殺人かぁ……」


 さすがに内容まで訊く気にはなれなかった。こういう時に下手な想像力を働かせたら録なことがないから。


「あの~、一応こういった物件ですので敷金礼金はナシでお貸しできますが……どうします?」

「ど、どうしますって言われてもなぁ……」


 不動産屋が話す通り、確かに単純に考えれば敷金礼金ナシは大変に魅力的。だが、人が死んだとなればやはり二の足を踏んでしまう……


 かといって、これからの学生生活を考えればできる限りの節約したいのもまた事実。


 そんな様々な理由で思い悩んでいると、不動産屋からある提案がされる。


「もしよろしければ、一度現場を内見してみるのは如何でしょうか?」


 ……もっともな意見である。それに冷静に考えたら、別に幽霊が出ると確定してる訳でもない。


「う~ん。それじゃあ、お願いできますか?」

「ハ、ハイ! ありがとうございます!」


 こうしてオレ達は、魅惑みわくの物件へ向かうことになったのだった。


「――――ここです」


 車を五、六分程走らせて到着した場所には、写真で見た通りのモダンな作りをした一軒家が建っていた。


 場所的には少し奥まった感じにはあるが、だからといって街からそんなに離れてる距離でもない。


「では、さっそく御案内しますね」

「お、お願いします」


 玄関のドアを開け、促されるままに中に入った瞬間、真新しい畳の香りが漂ってきた。


「いい香りですね」

「ハイ、畳と襖だけは新しくしてるんですよ。これなら、急に住みたいと言われても最低限の暮らし出来ますからね」


 不動産屋は「どうだ」と言わんばかりに自分の胸を叩く。まぁ彼の言う通り、その二つが新しければ部屋としてのとりあえずの格好はつくものだ。


「さぁ、中へどうぞ」

「あ、お邪魔します」


 用意されたスリッパに履き替えて案内される家の中は、思ったよりも清潔で良い印象を受けるモノだった。


 なるほど……これなら畳と襖さえ新しければ、すぐに住み始めても問題なさそうだ。


「ここ……いい家ですね」


 思わずそう感想を漏らすと、不動産屋は嬉しそうに返してくる。


「でしょ? 普通ならこんな良い物件は絶対にありませんからね!」


 普通ならか……逆に言えば、ここがと言っているようなものなんだけどな。


「ささ、こちらの部屋もゆっくり御覧になってください」

「あ、ハイ……」


 さらに奥へ案内されるなか、途中でふと視線に入った和室の押し入れが気になる。


「あの、この中を見ても?」

「かまいませんよ」


 断りを入れてから襖開き、念入りに中を見回す。もちろん天井もだ。


 だが、不動産屋はそんなオレの念入りさを不審に気になったらしく、心配そうに声をかけてくる。


「あの、お客様? もしかして御札でも貼ってると思いましたか?」

「あ、そ、それは……」


 じつは図星だった。


「ス、スミマセン。殺人と聞いていたので、てっきり幽霊用の対策でもしてるのかなと……」

「ハハハ、御気持ちはわかりますよ。そういったものは、たまにネットとかで見かけたりしますからね」

「ハ、ハハ……そ、そうですね」


 よかった、気さくに受け流してくれる人で。けど、こういった雰囲気の人なら、色々と詳しいことを訊いても大丈夫そうだ。


「えっと、一つ伺ってもいいですか?」

「もちろん。何なりと仰って下さい」


 か……それなら遠慮なく聞かせてもらおう。


「……ここでは一体何があったんですか?」

「『何が?』と言いますと?」


 この質問をした時、不動産屋は何故か懐に手を入れる動作を取っていた。


「いや、ですから……その、ここで殺人があったのが……」

「別にありませんよ」

「え? だって、ここに来る前に……」

まだ・・、何もありませんよ」


 ここでオレは、不動産屋の手にいつの間にか刃物が握られてることに気づく!


「ヤバイ!」


 本能的にそう思った瞬間、刃物はオレの喉元をめがけて振り抜かれる!


「うわっ!」


 咄嗟に身を引いて事なき得られたが、運が悪いことに部屋の隅へと追い詰められしまった!


「フフフ……どうやら、での最初の犠牲者はアナタになるみたいですね?」

「最初!? な、何を言って……ハッ!?」


 そういえばコイツ……“殺人”とは口にしてたが、「殺人が」とは一言も口にしてなかった!


そのことを思い出したオレは、改めて不動産屋を見る!


「フフフ……あんまり動かいでくださいね? せっかく替えた畳や襖が血で汚れてしまいますから……」


 これは……もう逃げられない!


 観念して目を瞑ろうとしたその時だった!


「な、何だ! お前は!」


 突如、不動産屋は何かに向かって叫んだ!


 コイツ……一体何に!?


「く、来るな!」


 怯えながら持っている刃物をに向けて必死に振り回す……その直後だ!! 


「ぎゃ!」


 何の前触れもなく、不動産屋の首が不自然な方向に捻曲った!!


「ぎゃ、ごっ……げ」


 聞くに絶えない呻き声を漏らしながらも、徐々に首はあらぬ方向に曲がっていき、ついには……


 ゴキャ!


 耳障りで不愉快ふゆかいな音と共に、はドサリとその場に崩れ落ちた。


「今の音……たぶん首が……」


 いや、考えるのやめておこう。こういう時に下手を想像力を働かせると録なことがないから。


 でも……それでも人というものは想像してしまう。


 ここには何かがある。いや、いる・・という事実を……


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