第4話 おじさん店主、国王陛下と出会う。

 ヒューロ王国の城下町ヒューリオ。レンガや岩で出来た建物が多く立ち並ぶ百年の歴史を持つ町だ。その住人の1人、バーに近くとても小さな店を営むおじさんはパニック状態になっていた。原因はお客様だ。


「いやーたまにこういうのも良いね」


 目の前にお客様がいるのは当たり前だ。夜なので労働後の人がいる。店が小さいため、4つの席があり、その内の2つの椅子に座っている。それは良い。問題はどのような人物がいるかだ。赤毛の青年、勇者と呼ばれていた騎士団の指導役となったエリアル・アンバーはまあ良い。騎士団が町中で食事したり、酒を飲んだりすること自体は良くある。


 隣が度肝を抜かす人物なのだ。にこにこと笑う金髪碧眼のちょっと太った男性。質素なシャツとズボンを着ている。つい最近、王に即位したエドモンド・リ・ヒューロ殿下だ。普通に酒を飲んでいる。目上の人はこういった場所に来ないのではないかとおじさんは思う。


「息抜きするのはいいんですが……ロロには伝えたのですか?」


 エリアルはおじさんと似たような考えをしていた。そうだ。偉い人は勝手に外出していいわけではない。いつ、どこで、敵対している組織から殺されるかどうか分からない。そのはずだが、護衛すらいない。バカではない。手のひらで弄べるほど人を動かせる頭はある。何か目的があって、護衛無しで来たのだろうかと、おじさんは考える。


「一応連絡はしてるよ。それにさ。これでも戦える身だし、襲われても問題ないよ。それとエリアル。タメで良いよ。プライベートだから」

「こっちにも立場ってのがあるんで無理ですよ。ひっそりと隠れてる護衛に睨まれたらどうするんですか」


 いないと思われていた護衛はエリアルが言うには何処かで隠れて見張っているようだ。ただの経営者であるおじさんは全く気づいていなかった事だ。流石は勇者と呼ばれるだけの事はあると感心する。


「大丈夫だよ」

「俺が大丈夫じゃないです」

「あ。そうだ。ふかした男爵芋とブルストを頼む」


 さり気なく慣れた様子で国王陛下がご注文。おじさんは硬い表情で叫ぶ。


「かかか。かしこまりましたーっ!」


 おじさんの顔と声でエリアルは彼に哀れみの視線を送る。


「あなたのせいでガチガチになっちゃいましたが」


 エリアルは盛大にため息を吐いた。


「もうちょっと気楽に接してもらっても良いんだけどね。変装なしでやったのがまずかったかな」

「……そっか。そう言えば、こっちに来てる時って、変装してましたね! 小さい時からですよね! 部下が真っ青になる事件を起こしてどうすんですか!」


 おじさんはエド国王の意外な事実を知る。変装して城下町で遊んだ事が何度もあるようだ。知らない内にこちらの店にやって来た可能性があり得そうだ。


「何事も起きずに済んだから良いじゃないか。大体それ、まだ僕が子供の時だし」

「だからこそ、騎士団長の記憶にガッツリ刻まれてるんですが!」


 色々と突っ込みを入れたい所だが、店主として品物を出す必要がある。おじさんはどうにか堪えて、料理を彼らの前に出す。


「いつもありがとねー」


 国王陛下はにこにこと笑い、手を振っている。おじさんは理解出来ず、固まってしまう。


「ほんと、すみません」


 エリアルが謝罪してきた。迷惑なのではないかと思っているからだろうか。


「いえ。こちらにいらっしゃるだけで、光栄でございます」


 おじさんはあわあわと慌てながらも、感謝の言葉を告げる。


「今度からきちんとアポを取ろうかな。急で失礼しちゃったね。エリアル。冷めない内に食べよう」

「分かりましたよ」


 その日以降、国王陛下は静かな店が気に入ったのか、たまに来るようになる。宣言通り、事前に行く事を知らせてくれたので、ある程度、店主の覚悟は決める事が出来たとか。

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