第2話 異世界出身の青年は夢で○○と会う
竹田友哉。異世界から来た住人である。極東からヒューロ王国に移住してきたという設定を作って、趣味である服作りとコスプレの経験を活かし、シルクの旦那の元で修行中である。魔道具のミシンの使い方や寸法などを習得し、ピンやカチューシャなど小さい物からワンピースやシャツなどの服を手掛ける日々。
忙しいが、充実した生活を送っている。それでも……時たま、故郷を思い出す事だってある。
夢は時に自分の欲が反映される。今日の彼の夢はたまたまそういう物であって、たまたま訪問者が来ただけだ。ただそれだけ。いや違う。彼にとっては心臓に悪い物かもしれない。
「ここって」
夢はいつだって不意に見るものだ。大勢の人が並ぶ先に4つの独特な塔が並ぶ建物があった。東京ビッグサイト。様々なイベントが行われる建物だが、オタクにとって、そこは年に2回あるコミックマーケットの会場だ。
「懐かしいな」
自他認めるオタクの1人である友哉は笑う。普通の笑いではない。涙が目から出ていた。故郷の日本という島国であり、思い出深い場所が夢に出ていたとなると、当然の反応かもしれない。帰りたい。その気持ちは未だに持っているものだ。
「ああもう! もう戻れないのなら、リア充になって、死んだ後、友達と話そうと思ってたのに!」
頭をブンブン回す。冷静になろうとした結果の行動だ。他人から見たら、ただ振り回してるだけの青年だろうが。
「よし。ちょっとクールになったかな。まあ夢ならごっちゃになってるだろうし、
色々見とくか。20年前とかあるかな。〇ジキャラットとか。あ。〇方の旧作とかあるかな!? ひ〇らしとか〇ateとかもあったらいーな」
欲ダダ漏れである。自分の好きな作品とか興味のある作品とかを羅列しただけだろう。
「いつ覚めるか分からないし、急ごうっと」
一歩前進。さあ。自分も。そう思っていた。
「ここが君の故郷か」
後ろから話しかけられた。〇○部に似たバリトンボイスだ。いつからここまで貪欲になったっけと思いながら答える。後ろは振り向かない。見知らぬ人だし、さっさと会場に入りたいからだ。
「まあここが故郷ってわけじゃないですけどね。一応関東圏ですけど……東京出身じゃないし」
「カントウケン。トウキョウ。それがここの建物がある地名と言う事か」
日本人なら知っている地名を知らない。外国から来たオタクかよと焦る。英語で通用するとは限らないからだ。通訳出来そうなスタッフにバトンパスするために、顔を見る必要がある。そういうわけで、恐る恐る後ろを見る。
「え」
友哉に話しかけてきた人は男性だ。ブルーブラックと呼ばれる黒っぽい青色の髪が腰まであり、結んでいる。身長は190cmぐらいで、バランス良く鍛え上げられている事が分かる。一言で髭が似合う美丈夫と言った所か。白いワイシャツに黒いズボンと黒い革靴と言うシンプルな恰好だ。
「……」
呆気にとられる。あまりにイケメン過ぎて、声が出ない。男性は表情を柔らかくする。
「初めましてと言うべきか。魔術師マーリンの服を手掛けた職人よ」
とんでもない事を言った。夢でもここまで具体的に言う奴はいない。そもそもその情報を持つ人は限られている。知っているのはシルクの旦那とマーリン本人のみだ。ひょっとしたら、エリアルは察したかもしれないが。それでも警戒する必要があるのではないか。
ここは異世界だ。ファンタジー世界だ。何があってもおかしくない。そう思った平和脳の友哉は距離を取っていこうとする。
「私は第34代目の魔王のイーヴィスだ。何故……距離を取ろうとするのだね」
「何となく」
相手が名乗ったから、本当はこちらも名乗った方が良い事は分かっている。しかし何が起こるか分からない今、下手に動けない。魔王と言っている時点でヤバイ人だってことを理解しているから余計に。唯の中二病なら良いのだが……本物臭い。
「ただ君と話したかっただけだ。茶を飲みながら話さないか」
「あー……はい」
拒否権がないと悟った友哉はイーヴィスと名乗る自称魔王の提案に乗るしかなかった。近くにあった某有名なチェーン店で会話をしたのだが、全く覚えていなかった。警戒のし過ぎか。緊張のし過ぎか。原因は複数あるが、夢と言うのは大体覚えていな
い。それが夢というものだ。
「うーん……変な夢見たような」
起き上がった友哉は目を擦りながら、あやふやな夢を思い出していく。
「よし。先生に聞いてみようかな」
辛うじて覚えている事は自称魔王のイーヴィス、東京ビッグサイトぐらいだ。こちらの世界に来てから、初めて聞いた魔王の事を聞こうと決意をしたのだった。
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