第3話 魔術学園長のとある冬のお話
今日はワーラルフ帝国とヒューロ王国の会談、とある人間が魔術師育成機関である魔術学園に入ってきた。魔力を持たない人間は生徒になれない。用事があって入ってきた以外、あり得ない事である。
まだ恒例の一般向け講義の日ではない。それを考慮すると、答えはただ1つ。魔術以外の資料も保有する図書館の利用だ。あそこは魔術師関係なく利用が出来る施設だからだ。
『やあ。勇者様。どうぞお入りください』
薄い色のレンガの小さい塔の中で警備を務めているエルフの老人が勇者様の許可を出す。
『ありがとうございます。それと呼ぶときはエリアルでいいですよ』
勇者様。ここヒューロ王国でそう呼ばれるのはただ1人の男。火・水・風・土の精霊の加護、更に光と闇も受けている唯一の人間。赤毛の短髪、茶色の瞳。温厚そうな印象を与える雰囲気を持つ。彼の名はエリアル・アンバー。1年ほど前に国を、世界を救った1人である。
『エリアル兄ちゃん! 何でこっちに来たの!? 仕事は!?』
校門を潜り、白い土で出来ている校舎に入っていく。我が生徒……多分3年生の子だろうね。しまった。素出ちゃった。まあどうせ使い魔感知してないだろうし問題ないよね。うん。どうせ気付いてもこっちから悪さしなければ、スルーするだろうし。
にしてもよくもまあ、ふっつーに話しかけられるよね。親しみあるからかな。ぱっと見、平民にしか見えないし。まあ実際、出身も農村って話だから、分かるっちゃ分かる。
『今日は休みなんだよ』
『そっかー。ねえお城の前、通ったんだけどさ。いつもより警備強いの何でさ』
だって儂もこれでもただの城下町の商売人の子だったし。同じなんだって分かるもんさ。うちの生徒もそれを感じ取ってるだろうね。それより……厳重な警備の時によく前通れたね!? パパかママから外の国の使者が来るとか聞いてなかった!?
あーでもそれは子供にとって関係ない事か。ありゃ。窓に鳩が来てる。何だろうね。使い魔との視界共有はカットしとこ。重要な仕事とかが来てたらマズイからの。
「よいしょっと」
中身は何だろうな。ふむ。ワーラルフの妹のルールー様が脱走。騎士が捜索にあたるも、難航している。学園長として多忙である事を知っている上で協力を要請する。
「アッハッハッハ! 相変わらずお転婆なお嬢様だ! っといかんな。笑ってばかりはおられまい」
「学園長。静かにしてください」
おっと。廊下まで響いてしまったか。この歳で先生に注意を受けるとはな。しかもドアを開けてやるぐらいに。こりゃ自制をせねば。
「すまんな。面白い協力要請が来たもんでつい笑ってしまったのだよ」
「そうですか。私はこれから授業の準備に取り掛かりますのでこれで失礼します」
軽くお辞儀して行ってしまったか。暇なら彼女にも協力して欲しかったが。まあ先に返事を書かねばな。忙しいけど、これぐらいは協力せんといかん。ある意味帝国からの依頼でもあるし、拒否したらどうなるのか想像したくもない。こんなもんでいいかの。足に紙を結んで。
「頼んだぞ」
これで協力体制になったな。さあて。広範囲に捜索に関する魔術をかけるのもありだけど。例のあの方の事だ。どうせすり抜ける。あーそう考えるとマジでいるな。助っ人。でもこの時間帯だと図書館にいる司書のスカイラーぐらいだな。動けるの。念話の魔術を使おう。同じ建物にいて良かった。
『スカイラーよ』
『はい。何でしょうか』
『騎士からの通達だ。ワーラルフの帝王の妹が城から逃げ出したそうだ。あの子は隠れるのも逃げるのも得意だ。運良く見かけたら連絡を頼む』
『りょーかい。そうそう。学園長。エリアルが来ましたよ』
やはりそうだったか。
『そうか。やはり図書館利用が目的だったか。どういったものを取ったか分かるかの』
『地理に関するものばかりですね。何をするつもりかまでは推測できませんが』
ほお? 地理に関するか。そうなるとあれか。何処かへ旅するつもりか。若いっていーもんだね。体力があって、好奇心旺盛で、記憶に入りやすいし。歳を取るのも悪くはないけど、たまには戻りたいもんだね。久しぶりに旅したいわ。
『この一件、エリアルに伝えないでくれ』
『はーい』
ふむ。線が切れたか。さてと。警備と違う術式で捜すとするかの。
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