このごくつぶし!人力発電所おくりだ!

ちびまるフォイ

タガタメの人力発電

「いつまでも家でぐーたらしてないで、就職先でも探しなさい」


「わかってるって」


これが親との最後の会話になった。

親は事故死してニートの俺は生活ができなくなった。


まもなく家に黒い服の男がやってきた。


「〇〇さんですね。あなたに人力発電所をご紹介に来ました」


「じ、人力発電所……!? い、いやだ! 俺はここにいたい!」


「どのみちここに住んでいても追い出されますよ。

 路上生活することになったときにまた暮ればいいですか?」


「うぐぐ……」


しぶしぶながら人力発電所へと連れて行かれた。

施設に着くと白く清潔感のある建物が見えた。


重そうな鋼鉄のドアの先へ行くと、足つぼマットの上に人間が繰り返し足踏みしていた。


「え……なにこれ」


「あれが人力発電ですよ。ああして足踏みすることでエネルギーを作っているんです」


「もっとこう……ディストピア的なものを想像してました。

 チューブとかにつなげられて、人を人とも思わないような……」


「発電のためにやっているのに、電気つかってどうするんですか」


「ははは……たしかに」


「さあ、早く足つぼマットに乗ってください。

 労働時間が終わったらまた迎えに来ます」


人力発電所での労働がはじまった。

といっても、繰り返し自分のペースで足つぼマットのうえで足踏みするだけ。


「いっちに、いっちに、いっちに……」


繰り返し同じ作業をするだけ。

退屈ではあったが体を動かして眠くはならない。

足つぼのおかげで足踏みするほどに体は健康に向かっていく。


「いっちに、いっちに、いっちに……」


人力発電の昼シフトが終わると、夜シフトようの人たちが入って交代になった。

人力発電所を終えると送迎バスに乗って家に帰った。


ちゃんと給料も渡され、休憩時間にはお弁当も出される。

疲れたら自分のタイミングで休憩できるし、トイレも自由。


人力発電所では誰もが平等で上下関係もない。

ただみんな同じように足踏みをするだけ。


「いっちに、いっちに、いっちに……」


休憩時間には他の人力発電者と仲良くなったりした。

しだいに人力発電所は友達や知り合いとの集いの場所として見えるようになった。


「さて、今日も発電にいくか!」


残業もない。無理もされない。

不便もなく毎日が充実している。

体には活力があふれていた。


すっかり人力発電に慣れたころ、ふいに呼び出しがかかった。



『〇〇さん、〇〇さん。人力発電管理室までお越しください』



人力発電所の横に併設されている管理室へやってくると、


「あの……俺、なにかしでかしたんでしょうか」


「いやいや、その逆だよ。君を評価しているからここに呼んだんだ」


「はぁ」


「君の働きぶりや人間性が評価されて、君は晴れて本部へ移動となった」


「ほ、本部!? 冗談じゃない! なんでそんな忙しそうなことをしなくちゃいけないんですか!」


「もちろん給料だってはずむのに、本部は嫌なのかい?」


「俺はあの発電所がいいんです。あそこには友達もいるし……。

 毎日変わらない、何も変化のない、あの場所がいいんです!」


「すでにこれは決定事項だ。それに今は知らないからそう思うだけで、

 仕事をはじめてみると楽しさに気づくことだってあるはずだ」


「そんな……」


「明日づけで本部にきたまえ」


翌日、気が重いまま居心地のよかった場所ではなく本部へと向かった。


今度はどんなに大変なことを要求されるのか。

考えるだけで気が重かった。


「こんにちは……」


自動ドアの向こうには、黒いスーツを来た男たちが待っていた。


「今日から本部で働くことになった方だね、本部へようこそ。

 ここでは人力発電所から得たエネルギーを、

 よりパワーアップさせて増やす作業をしている」


「それで、俺はここで何をすれば……?」


「なに、我々と同じことをすればいい」


上層部の人たちはスーツに汗をにじませながら笑った。



「ここで、世界のロボット様が止まることなく動くために

 足踏みでエネルギー増幅作業をするだけだよ」

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