方言バトル企画入賞レビュー「田舎の悪評、風のごとし」


 読んだ瞬間に「絶対これが入賞だろ」と確信できる良作です。
 この作品には広島の風情と情緒、伝統と美、そして田舎の嫌な側面と「帰省時の気まずさ」までが見事に再現されていました。リアリティにあふれた文章というものは往々にして苦味が強く読み手を嫌な気分にさせるものですが、この短編は違いました。
 墓参りに持参する「トウロウ」の美しさと、伯母さんの気さくな性格が人生の苦味を見事に調和しており読後感も非常に爽やかです。

 本当に、田舎の悪評ほど広がりやすいものはありません。
 なぜなら田舎の人たちは皆「生きていれば恥をかくのなんて当たり前だ」ということを熟知しており「地元は家族みたいなものだから隠さないでいい」と大きなお世話ながら思っているからなのです。もしくは他人の不幸しか楽しみが……失敬、そんな事はありませんよね?

 子どもは帰省時の居心地の悪さにうなずき、大人は伯母さんの台詞ひとつひとつに共感する。もしくは自分もかつてこうだった事を思い出し、思い出に浸るのも良いでしょう。
 万人が楽しめる懐の深さは、入賞に相応しい完成度です。
 今年、実家に帰れなかった貴方へ、おススメです!

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