上級市民と下層市民と異端者、三つ巴の世界

 選ばれし市民の安全のため、危険な「イレギュラー」を排除する特殊部隊、〈PHALANX〉のいち隊員の活躍を描いた物語。

 激しい戦闘アクションが魅力のサイバーパンクSFです。
 約12,000文字強の短編でありながら、単純な「主人公とその敵との対立構造」ではなく、三つ巴の世界観を描いているところが面白い。
 お話の展開そのものは非常にわかりやすく、勧善懲悪の形をした物語を読んでいるようで、その実この世界観がモリモリ効いているお話でした。

 主人公であるスラッシュさんの造形が好きです。というか、彼が視点保持者を担っているところがすごい。
 特殊な超常能力を備えた新人類、「イレギュラー」の存在を描いたお話でありながら、主人公である彼自身は何の能力もないこと。代わりに兵隊アリのように集団の物量によって敵を倒す、つまりは個を持たないいち部品としての性格を保持した存在である点。その独特の認知というか、変わった価値観(少なくとも物語外の我々からすれば)を通じて世界を見る、その感覚がとても面白いです。

 群を構成するいち部品としての人格。現実世界の我々のそれとは違う、まさにSFらしい感覚のようでいて、でも必ずしも現実に存在しないわけではないところもまた楽しいお話でした。読み方次第でいろんなダシが出る感じが大好き!