1-37:復讐は何も生まない?
「なんか、バカみたい」
最初に響いたのは、そんな声だった。
「こんなに、空虚な気持ちになるだなんて」
「私たち、これからどうする?」
勇者達は一人を除き、呆然としていた。
目的を見失い、生きる意味が消えた彼女らの目に、光は宿っていなかった。
呆然と、何も残らなかった手を見つめる。
目的が無くなり、守ってくれるものも、居場所も失った。
つい数秒前まで、それでもかまわないと心を燃やしていたはずなのに。
しかし普通を、社会を知らない彼女らは、これ以上何も、どうしたら良いのかも分からない。
そんな中、ある目的を胸に、ある少女はその場を離れた。
「……この辺りのような、気がするな」
光と呼ばれていた勇者だった。
光に関しては他の追随を許さない彼女は、その能力をフルに使用し、光のある場所、つまり光源を探し、隠し部屋を探るという力技に出た。
限られた範囲の、限られた秒数。それでも負荷が大きいその能力は、定義の通りに実行され、明らかにおかしい地下へ伸びる光源の位置を正確に伝えた。
「お、やっぱりあった」
なんの変哲もない、人が通らなさそうな通路、その壁を押してみれば、あっという間に仕掛けは破壊された。
勇者として育てられた彼女らにとって、からくり仕掛けというのは耐久性に難がある扉、というだけなのだ。
木くずと石の塊が散乱したが、それを気にせず奥へと進む。
「そして、きっとここら辺に、っと」
教皇らが、そういったデータを放棄できるほど肝の据わった人間とは思えない、どこかに控えでも用意して、いざという時の証拠やらに使用するはずだ、と踏んでの捜索だったが、功を奏した。
その資料には、勇者たちがどこから連れられてきたか、誰が親だったのか、生年月日、最初の能力値、そして運用方法まで、事細かに記されていた。
「まさか、こんな感じだったなんて……ね」
一番上に記された光という文字と、隣に記された『魔王討伐の主力として、またその後の戦術兵器としての運用』という言葉は、想像していたとはいえ心に来るものがあった。
しかし、全員分の書類を集めても、まだ紙が有り余る。
もしや、と思い、その一枚に目を通した。
それは一つの報告書だった。
しかし嫌な予感を裏切るように、異常な文字は見つけられなかった。
幹部が街を一つ救済したという内容だ。
「大丈夫なもの……を、ここに置きはしないよね」
私たちの書類と同等レベルの管理を敷いていると言うことは、つまりそういうことだ。
この内容も、表に出せない何か、というわけだ。
「これだけ、持って帰っておこう」
嫌な予感を感じながら、その紙をそっと懐に隠す。
そろそろかという頃に、入口の光を歪めて隠蔽し皆の元へと返った。
廻れマワれ 大山 たろう @Ooyamataro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。廻れマワれの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます