1-36:その表情は、実に穏やかなものだった。
「ようこそ、お待ちしていました。勇者様方」
女神の石像と美しい花畑が飾る教会入口には、おびただしい数の神父が集まっていた。
その誰もが、手に杖を持っている。友好的ではないことが目に見えて分かる。
奇襲するつもりだったし、今日だってことがバレるはずもなかったんだけどな……。まぁ、ばれている以上それを嘆いても仕方がない。と心を切り替える。
「どうして私たちがここに来たか――分かってる、って感じだね?」
話してみれば分かるかもしれない。淡い期待を声に乗せる。
「分かっております。そのうえで言いましょう――死んでください、と」
その瞬間、数千いるだろう兵がなだれ込み、神父を含む全員が、その手に握る武器を向けた。
私たちに。
「特に光。貴女は――知っていますね」
「だから殺すと――その手段を取るなら、育ての親でも容赦しないよ」
私は剣と盾を取り出した。
「おお神よ、哀れな子羊に、最期の情けを……」
「全部隊、攻撃用意」
魔法詠唱が始まった。
聖剣に遠く及ばず、しかし膨大な物量。私たちでも食らえばまともに立ってはいられないだろう。
「面白いじゃない」
私も詠唱を始める。
他の人達は――まだ、その手に迷いがあるように、見える。
「私が、全て終わらせる」
詠唱が終わったとき、その大きさに違和感があった。
長さも厚さも、半分程度まで小さくなっていた。
心当たりは一つだけあった。
武器の変更。私は以前から変わって、片手剣と盾を握っている。
盾には聖剣が来ないあたり、武器一つだけしか強化できないらしい。
ただ、それのおかげで意図せず建物を壊すこともなさそうだ。
良いのか悪いのか――今回に限っては良かったと言えるだろう。
そう思い、剣を強く、握りしめなおした。
「発射!」
「『絶対なる光の聖剣』」
戦いの火蓋が切って落とされた。
戦いの余波は教会の床や壁を破壊するが、それでも止まる気配はない。
周りは止めるどころか、気にされる前になぎ倒され、切り刻まれるか、若しくは魔法により爆散するか。
原型が残っているだけ、まだ魔法のほうが良いと捉えるか、味方に殺されているという現状がおかしいと嘆くのが先か。
それがどうであれ、結果が死のみということに変わりはなかった。
「リーチが短く、圧倒的な力で押しつぶす戦い方もやめた。弱くなったものですね」
「強くなってるよ、私は」
戦いの中で、その理想は確信に変わっていた。
こちらは体力の消費やカードの消費こそあれど、怪我や大きなダメージというものは一つもない。
対して相手は――
「これで全部? はっ、随分とあっけないもんだ」
火の人が鼻で笑った。
最初に取り囲むほど居た人数は、既に教皇と、付きっ切りで守っていた三人まで数を減らしていた。
そしてその人たちですら、表情は恐怖に歪み――これ以上の戦闘は不可能だろうと、誰もがそう感じていた。
「それで、どうしよっか」
「教会は壊滅状態、多分この惨状と、やらかしたことを報告すればその威信すら地に落ちる」
「とは言っても――」
教皇を殺せば終わる問題でもないし。
そんな感情が私の中にはあった。
「そんな情けをかけられても困りますよ」
教皇は懐から、古臭い装飾がされたナイフを取り出した。
まだ抵抗を止めないつもりか、と教皇を睨みつける――が、その目に覇気はなかった。
「最後まで見られぬのは残念――ですが、最期の命で今後の世界に傷をつけるとしましょう」
そう言って教皇は側にいた三人の首を切りつけた。
鮮やかな、手慣れた動きだった。
そして血濡れたナイフを握りしめ何かを唱えると、それを自らの心臓に突き付けた。
「――ッ」
そのまま、教皇はあっけなくその生を終えた。
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