1-35:勇者、再集合

 集合場所へと着いた私は、騒乱に紛れるように、街へと入り込んだ。

 巨大な教会が街の半分以上を占めている、総本山と呼べる街である。

 名前は知らない。仮に知っていたとして、それが封鎖された空間で、教皇によって教えられた知識である時点で正確性が疑わしくなるけれど。

 そんな名も知らぬ街の、煙の立つほうへと向かうと、裏路地にある荒れた家の中に、懐かしい気配が感じられた。


「やっと来たか」


 火の人が呆れながら言った。

 それに苦笑いをしながら、光の人は少し駆け足に部屋の中へと入る。


「ごめんね、用事はとりあえず終わったから合流したよ。こっちはあと少し?」

「あとは教会本部の大聖堂だけ」


 氷の人は抜き身の刀を片手で操ると先端をそっと、窓の外に映る巨大な建物――大聖堂へと向けた。

 他は――みんな、沈黙を保ったままだった。

 これが最後だと、決着を付けに行くんだと、そう言わんばかりの。


「ちょっと個人的な話になるんだけど、良い?」

「……どうしたの?」

「光っちがしてた個人的な用事って、何だったの?」


 風の人は、好奇心旺盛を隠そうともせずににこにこ……というよりニヤニヤとしている。歪む口角を抑えきれていない。


「長くなるから、それは帰ってからのほうが良いんじゃないかな?」

「気になって戦いに行けなーい」


 あからさまに棒読みで返されたものの、その意見がこの場にいる皆の総意だということは、後に流れた沈黙で感じさせられた。

 どうも「ここを攻めなければならない」「同じ意見じゃないのはおかしい」というような謎の力を感じる。別に一人別行動したっていいじゃないと思う……が、命がかかっているからそうも言えないのが現実。

 とはいえ、これからの作戦に全く関係のない話である。母親に会ったことも、名前をもらったことも。報告すべきとしたら、装備を変えたことくらいだろう。


 あのこと――村の騒乱は、下手なタイミングで言われるよりは今のほうが良いのだろうけれど、一番はやはり言わないこと、知らないこと。

 資料を探して、しっかり詳細を調べ上げて、皆が知りたいと思ったころに見せても遅くはない。そう思いながら、与える情報を吟味していく。


「私は、ある村のある人に会いに行ってた。私の母親に」

「……どこで母親を知ったの」

「実際は、村に行くように言われて、行ったら母親がいたって感じなんだけどね」


 酷く冷徹な風の人の声。何か癪に障ることでもしただろうか……彼女の場合気分屋過ぎてコロコロと移り変わるからどこがダメなのかあんまりはっきりしないからなぁ。

 そんな感情を抱きながらも、彼女の促すままに口を開いた。


「そう。母親はどうだった? 二度と会いたくないって、なんで生きてるって罵られた?」

「いや――」


 愛されていた、と言おうとしてすぐ口を閉じた。

 捨てられたと思っている方からすれば、捨てた親が愛しているだなんてふざけているとすら思えるだろう。なにせ捨てられれば死ぬのが一般的だから。愛しているだなんて、どの口が言うのだと。その愛で育てることはできなかったのかと思うだろう。


 愛しているだなんて、信じないだろう。信じる時は、きっと全てを知った時だ。


 きっと、今は愛なんて与えられてないと、そう思ったほうが幸せだろう。

 勝手かもしれない決めつけをして、言葉を変える。


「いや、なんでもない。思っていたほどだったよ」

「そう。まぁ、別にどうでも良かったね」


 返ってきた反応はあまり面白くなかった、という風だった。

 聞きたいって言ったのはそっちなのに。続きを促しておいて、やっぱり風の人は気分屋でよくわからない。

 ため息を吐きたい気持ちがいっぱいだったけど、話をつまらなくした――敢えて話さなかったことを考え、話を切り替えた。


「それと、戦闘スタイルが変わったくらい。旅先で練習したの。今はこれ」


 そう言って、片手剣と盾を取り出した。


「そうか、ま、足引っ張るんじゃないぞ」

「もちろん。これでも結構練習してるから」


 体の動かし方とか、戦闘の位置取りとか、大剣で学んだことを使えるから、完全に一から学びなおしではないという所がまだ良かった点。

 カキン、と金属音をわざと鳴らし、少しでも手慣れている感を見せた。

 それを見てなのか、それとも信頼されているのか。異議を唱えるような人は出てこなかった。


「それじゃ、行くぞ」


 火の人の号令に従って、私たちは城を目指す。

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