第6話 お守り効果のその先に

 ◇ ◇ ◇


 あのあと、私たちは駅付近の舗装された場所に座って、2人でたこ焼きを食べた。

 マリンは駅より向こうには行けないけれど、駅ギリギリまでは来られるようだった。


 ――あんなに無邪気に嬉しそうにたこ焼き食べる人、初めて見たかもしれないな。


 私はたこ焼きを食べながら、笑顔でおいしさを分かち合える相手がいる喜びをかみしめた。

 高校ではお昼はいつも1人だったので、私には他人と食事をするのがとても新鮮なことだったのだ。


 べつに1人で食べるのが嫌なわけじゃなかった。

 学校には食堂があったし、1人は1人で自由にできて案外いいものだ。

 でもそれとはべつに、「一緒に食べられる誰かがほしい」という気持ちもないわけではなかった。


 たこ焼きを食べて、お別れの挨拶をして、私たちは別れた。

 私が電車に乗って須磨駅を離れるまで、マリンはずっと見守って手を振ってくれていた。



 ――でも、あれからあの子には会えていない。

 おそらく、もう会えることもないのだろう。



 マリンと過ごしたあの日も、今では「思い出」となった。

 あれから5年近い月日が流れている。


 結局私は、あのお守りの力は使わなかった。

 正直に言うと、使うのが怖かったのかもしれない。

 もし使って何も起こらなかったら、何の効果もなかったら、と考えると、あの子との1日が嘘になってしまう気がして使えなかった。


 でも、それでも「お守り」としての効果は十分に発揮してくれた。

 ちなみにお守りは、私が見つけた私だけの石ころは、今も小さな小袋に入れて大切に持ち歩いている。



 私は今でも、たまに須磨海岸へと足を運ぶ。

 そこでやっぱり1人でぼーっとしたり、何か考え事をしたりしている。


 でも、あの頃とはもう違う。

 大学に行けば友達もいるし、何より前を向くことができて、私が私を好きになれた。

 この5年間、神戸というこの場所で、あの出会いを無駄にしないよう人と交わる努力を重ねてきた。


 ――ねえ、私、頑張ったよ!



 あの海の女神は、今もどこかで私を見ているのだろうか?

 海を眺めながら、ふとそんなことを考える。


 海がキラキラ輝くと、あの子が横で微笑んでいるような気がする。

 海色の青い髪と白いワンピースをなびかせて、海を閉じ込めたような藍色の瞳で、私を見守ってくれている――ような気がする。


 いつもの馴染みの須磨海岸で、いきなり詩的な言葉を投げかけ、お守りを探そうと言い出し、不思議な力を使って、最後にはたこ焼きをおいしそうに食べていた少女。

 もし再び会うことができたなら、また一緒にたこ焼きを食べたいな。

 今度はドーナツもサービスしちゃうのに。


 神戸市須磨区にある須磨駅は、その先にある海岸は、今日も無限の可能性と繋がっている――。

 【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼっちJKと海色の髪の不思議少女 ぼっち猫@書籍発売中! @bochi_neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ