第5話 魔法のお礼はたこ焼きで
しばらくすると風の渦と青い光は収まり、そこにマリンがいる以外はいつも通りの海岸へと収束した。
「はい、これがあなたのお守りだよっ」
マリンから渡された石は、一見何の変哲もない石に戻っていた。
光を放ったり、風の渦を作ったりする様子はない。
「今の、いったい何だったの?」
「この石に、自然の力を閉じ込めたの。これからはどこにいても一緒だよ」
「あ、ありがとう……」
私は、石――お守りを太陽にかざしてみる。
そしてぎゅっと握りしめてみる。
小さい割にしっかりとした重み、内側から冷たさがにじみ出てくるようなひんやりとした手触りが心地いい。
言われてみれば、何となく大自然の、海の力がこもっている気がしないでもない。
「そういえばさ、マリンちゃんはあそこで何してたの? 何か用事があったんじゃないの?」
気づけば私の心のうちを聞いてもらって、お守り探しにも付き合わせて、不思議な力を見せてもらって、と私ばかりが時間をもらっている。
もう夕方だしそんなに時間もなさそうだけど、何か用事があるのなら、今度は私が付き合う番。
そう思っていたのだが。
「ううん。あなたがいつも寂しそうに海を見つめるから、気になって出て来ちゃっただけ。でももう平気だよね!」
マリンは青い髪を風になびかせながら、嬉しそうにそう話す。
――平気、だろうか?
晴れていた私の心に、再び暗雲が姿を覗かせる。
たしかにお守りはもらった。
彼女が女神だという話も、今なら信じてもいい。
でも――
「今日、あなたと会って実際にお話できて、とっても楽しかったよ」
「……私も。ねえ、また会える?」
もっとこの子と話したい。
聞きたいこともまだたくさんある。
これからも、こうしてたまに会って話を――
「うーん、それはちょっと難しいかも。本当はね、こういうのやっちゃダメなの。女神の世界もいろいろとややこしいんだー」
マリンは寂し気な表情を浮かべて俯き、残念そうに砂を蹴る。
「……そう、なんだ」
まあたしかに、こんな不可解な現象がほいほい起きていたら世界の常識が覆ってしまう。
女神の世界とやらの言い分も分からなくはなかった。
「じゃあもう、お別れなんだね」
「……うん。でもそのお守りに私の力を込めたから! 私のことも、そのお守りがあることも、忘れないでね!」
「分かった。ありがと。でも何か、私にできることで何かお礼がしたいな」
一方的に助けてもらって終わるのは、何となく心残りだし。
でも、ただの高校生である私が女神にできることなんて――
「本当!? じゃあたこ焼きが食べたい!」
「……え?」
え? たこ焼き?
「実はね、駅の反対側にたこ焼き屋さんがあるみたいなの。でも私、海の女神だから駅の反対側には行けないんだー。だからね、買ってきて!」
今日一番のキラキラとした目を向けられる場面がまさかのこことは。
女神とは言っても、やっぱり子どもは子どもなのだろうか?
「……実は地縛霊?」
「ちがーうっ! もう! 女神だってばっ!」
マリンは拗ねた顔でそう口を膨らませる。
「冗談だって! じゃあ買ってくるね!」
家族以外の誰かとこんなに自然に会話ができたのなんて、いつぶりだろう?
というか、初めてかもしれない。
私は溢れ出す嬉しさを必死で隠しながら、たこ焼き屋さんに向かうのだった。
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