エピローグ 1年後 パトリシア視点

「パトリシア、結婚おめでとう。いってきなさい……っ」


「パトリシア……っ。結婚、おめでとう……っ」

「うむ……っ。うむうむ……っ。パトリシアくん、美しい……っ。おめでとう……!」

「パトリシアちゃんっ、綺麗よ~っ! おめでとう~っ!」

「パトリシア様、本日はおめでとうございます。お美しゅうございます……っ」


 エンゲージリングを頂いた日から、ちょうど1年後。私は隣国メイルンで最も大きな教会にいて、大きな拍手と涙声をいただいていました。


 ブロンシュ家の関係者。殿下を始めとする、王族の方々。

 最前列にいらっしゃる、カロルお母様、アルノーお義父様、ベルナデットお義母様。

 祖国エリルズの医学の権威、ティルファ先生。

 そして。ヴァージンロードを一緒に歩んでいた、ヤニックお父様。


 私は素敵な方々に囲まれ、見守られています。


((……こんな方達が傍に居てくださる。私は、恵まれていますよね))


 親族にも煙たがられて、何度も『適当な理由をつけて追い出すべき』『一日も早く養子を取るべき』と苦言を呈されていました。ですがそのたびに追い返してくださったお父様とお母様。

 化け物令嬢と揶揄される酷い姿を目にしても、その表情は微塵も変わらなかった。抱き締めてくださり怒ってくださった、お義父様とお義母様。

 化け物令嬢だった私を唯一診てくださった、先生。

 ブロンシュ家とハレミット家は、直接繋がっているべきだ――。そう仰られ、上級貴族の養女とならずに済むよう力を貸してくださった、エリック殿下。


 そんな皆様一人一人に、頭を下げて。全身を使って、感謝を示して。ゆっくりと頭を上げると、正面へと向き直って再び進み始めます。

 オルガンの音色や綺麗な歌声に包まれる教会、ヴァージンロード。そこを進んでゆくと、


。素敵な光景だったね」


 終着点には――祭壇にはがいらっしゃって。最愛の人が、笑顔で迎えてくださいました。


「……はい……。皆様が私の幸せを願い、喜んでくださっていました……っ」

「うん、そうだね。そんな全員の期待を裏切るわけにはいかないし、僕自身も君が悲しみ落ち込む姿を見たくはない。だから今の表情を、守り続けるよ」


 喜びが理由の涙を浮かべている、幸せで満ちた顔。私の顔を真っすぐ見つめてくださり、その状態で誓約を交わします。

 そして、


「パトリシア」

「はい。テオ様」


 エメラルドとサファイアをあしらった、マリッジリング――2人でデザインをしたものを交換します。

 エメラルドは、テオ様の瞳の色。サファイアは、私の瞳の色。現当主のテオ様は公務などでお忙しく、でも、そんな時でも傍にいられるように――。そんな願いを込めて、決めました。


「とてもよく似合っているよ「とてもよくお似合いです」


 指輪の交換を行った私達は同じ感想が出て、そのことに小さく噴き出し、その後ベールアップが行われます。そしてそのあとに待っているのは、最後のイベント。口づけです。


「……パトリシア。改めて、約束をするね。聞いていてください」

「はい。テオ様」

「恋人から婚約者になって、次は婚約者から夫婦になります。僕達の関係性は、再び変化します。でも、他は何も変わらない。これまでの日々が、いつまでも続くよ」


 殿下の庇護があっても、子爵家の娘が嫁ぐ現実に小言を言われる――などなど。婚約者となってからも、色々な問題がありました。

 ですがその際には即、テオ様が声を上げて芽を摘み取ってくださって。私の表情が曇ることは、一度もありませんでした。


「なので、これからも――。安心して、隣を歩いてください」

「はい……っ。引き続き、お隣を歩かさせていただきます」


 そう答えると、信頼してくれてありがとう――。と返ってきましたので、「テオ様が信用できる方ですから」とお返して。一緒に微笑んで、目を瞑ります。

 そして私達は、


「パトリシア。愛しているよ」

「テオ様。愛しています」


 キス――。変わらない想いを感じながら、私達の世界は新たな1ページを記し始めたのでした。



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化け物令嬢と呼ばれる私と、ダンスを踊ってくれた人がいました 柚木ゆず @yuzukiyuzu

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