第32話 ダンスのあとに パトリシア視点(2)

「パトリシア・ハレミット様。わたしは澄んだ瞳を持った、貴女という人に恋をしました」


 大きなダイヤモンドをあしらった、指輪。エンゲージリング。テオドール様はそちらを携えながら、私の両目を見つめます。


「どんな境遇になっても、濁らない心。わたしは瞬く間に貴女に惹かれ、その気持ちは以後も時間に比例して増加してゆきます。同じ時を過ごせば過ごすほど、知れば知るほど、貴女という方が好きになりました」


 私へと注がれる、エメラルドのような瞳。そちらが柔らかく細まります。


「僕達は出会って、間もありません」


 はい。そうですね。

 4週間と、少し。一か月程度しか経過していません。


「パトリシア様。僕はこれまで、こういった行動は長い時間が必要なものだと考えておりました」


 テオドール様、私もです。

 化け物令嬢となってからは、考えたことはありませんでしたが――。それまでは、そう。じっくりお互いを知る期間が必要。そう思っていました。


「ですがここにも、例外は存在したのですね。恋は長さでは決めるのではなく、濃さで決めるもの。そう確信するようになりました」


 恋に関する気持ちを収める容器が、心の中にあるとして。それを満杯にすることができたのなら、他は関係ない。

 そう、感じるようになっています。


「ですので」


 ですので。


「僕は。迷わず、自信を持って告げることができます」


 私は。迷わず、自信を持って答えることができます。


「パトリシア・ハレミット様。貴女に、パトリシア・ブロンシュになっていただきたい。

わたしテオドールの隣を、ずっと歩いていただきたいのです。今後は生涯のパートナーとして、様々な時間、出来事を、共有してはくださいませんか?」


 改めてグリーンの瞳が注がれ、想いが詰まったリングが改めて差し出されます。

 そんな、眼差し。そんな、お言葉。そんな、行動。

 それらに対して私は、


「はい……っ。テオドール様……っ。私を、パトリシア・ブロンシュにしてください……っ。貴方様のお隣を、いつまでも歩かせてください……っ。ずっとずっと、一緒に感じさせてください……っ」


 同じ感情が籠った視線と言葉と返し、大きく頷いて――。差し出されたエンゲージリングを、左手の薬指に嵌めていただいたのでした――。

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