第32話 ダンスのあとに パトリシア視点(1)

「テオドール様……っ、夢のような時間でした……っ。ありがとうございます……っ」

「こちらこそ、ありがとうございます。パトリシア様のおかげで、大きな思い出がまた一つ増えましたよ」


 何分にも渡るダンスが終わったあと。私達はこの空間の隅に移動して体を休ませ、落ち着くや改めて微笑み合いました。

 今はこの場に、2人しか居ません。ですがあの夜は、そうしましたので。私達はあの人同じ場所で休憩を取り、言葉を交わしています。


「…………そういえば。あの時私は、化け物令嬢なのにどうして興味を? と伺っていましたよね」

「ええ、そうですね。そうでした」

「そうしたらテオドール様は秘密を教えてくださって、そして。そんな私を、好きだと仰ってくださいました」


 いくら視えていても、目の前にいる私はあんな風になっていたのに。コブだらけの私を真っすぐ見て、告げてくださった。

 その際の瞳は、今でも鮮明に焼き付いています。


「すでに世界が変わっていたのに、更に変えてくださって。その出来事も、忘れられない、忘れるはずがないものの一つです」

「勿論こちらも、僕も鮮明に記憶していますよ。こうやって、行いましたよね?」


 テオドール様は姿勢を正された後、流麗な動作で片膝をつかれました。

 はい、そうでした。私は幸せの感情で体を震わせながら、伸ばしてくださった手に手を重ねたのですよね。


「折角ですので、そのシーンも再現しましょう。…………と思いましたが、あの出来事はお互いにとって大切なもの。繰り返すべきものではありませんので、別のものにしましょうか」

「え? 別のもの、ですか? 何をなさるおつもりですか?」


 そちらの代わりとなりそうなものが浮かばず、私は首を傾げて目を瞬かせていました。そうしたらテオドール様の右手が懐へと入り、


「これから僕が、行おうとしていること。それは、貴女へのプロポーズですよ」


 っっ。服の中から、ケースに入ったリングが現れました……っ。

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