第53話 叙勲式
一方、その頃。デスクで事務作業をしていたアトラスの元に、ギルマスのエドワードがやってきた。
「アトラス。宮廷から正式に叙勲決定の連絡があった」
その言葉に「おおッ」と沸き立つパーティメンバーたち。
「ローレンス騎士団へ、第一等・ナイト・コマンダーでの入団が認められる」
ローレンス騎士団は功労者が入団を許される騎士団である。
メンバーには第一等から第三等の序列があるが、最上級の第一等で入団すれば、準貴族であるナイト爵の称号を得る。
二十代でナイト爵を得るのは異例中の異例であった。
「叙勲式は金曜日に行われる。パートナー同伴になるが、お付き合いしている女性がいなければ、家族かもしくは部下を連れて行っても構わない」
そう言われて、アトラスはうーんと悩む。お付き合いしている女性はいない。そうなると誰を連れていくか悩ましい。
「パーティ当日までに決めてくれればそれでいいぞ」
アトラスは悩みながら、ふとパーティメンバーのほうを振り返る。
すると、真っ先にアニスと目が合った。
「……あ、いえ、その」
なぜかアニスは挙動不審になる。
「どうかした?」
「いえ、本当になんにも……」
(何か意味ありげな感じだけどなぁ)
しかしアトラスは今パートナー選びのことで頭がいっぱいだったので、それ以上考えることをしなかった。
アトラスは席に座り直し、考えを巡らせる。
お付き合いしている人は当然いないので、選択肢は妹ちゃんか部下ということになる。
「(しかしなぁ……例えばアニスとかをパートナーとして連れていくのはさすがに気が引けるしなぁ)」
少し考え、チラッとアニスの方を見ると。なぜかまた視線が合ってしまった。アトラスは慌てて視線を逸らす。
(アニスも俺のパートナーなんてヤだろうし)
だが、そうなると選択肢は妹ちゃんだけになる。
(うーん……。まぁ仕方がないか)
アトラスの中でとりあえず結論が出た。
――すると。
「あ、あの! 隊長!」
アトラスのデスクに、アニスがやってくる。
「ど、どうかした?」
「えっと、その……わ、私、金曜日は暇です!!」
「ん、金曜日?」
アトラスはアニスの言葉の意味がわからず、一瞬困惑する。
「……ああ、もしかして有給取りたいの? それなら全然いいよ」
アトラスがそう言うと、アニスは「ち、ちがッ!」と咄嗟に反論するような口調で言った。だがすぐに口を紡ぐ。
「い、いえ。ちがくないです……休み取りたいです」
「もちろん大丈夫だよ」
アトラスがそう言うと、しかしアニスは頬を膨らませた。
「……?」
アトラスは部下がなにやら怒っていることに困惑する。
(お、俺なにかまずいことした?)
部下たちは、女心を理解できないアトラスに対して、一つ溜息をついたのだった。
†
アトラスは叙勲式に参加するため、王宮へとやってきた。
当然のように、パートナーは妹ちゃんだった。妹ちゃんはそれが当然と考えていたし、アトラスとしても他に候補がいなかったので特に異論はなかった。
「それにしても、ブラックギルドで平隊員やってたのがウソみたいだよ……」
妹ちゃんがアトラスの横でしみじみ言った。アトラスとしてもそれには同館だったが、それよりも気になることがあった。
妹ちゃんが、ガッシリとアトラスの腕を掴んでいることだ。家を出てからここまで、妹ちゃんはずっとアトラスと腕を組んだままだったのだ。
「妹ちゃん? 王様たちの前に行くし、さすがに腕を離してくれる?」
アトラスが言うと、妹ちゃんは「やだ」とだけ言って、そのまま歩き続ける。
「……は、恥ずかしいんだけどなぁ」
アトラスがそうぼやくが、妹ちゃんは気にする素振りすら見せなかった。
結局、式典が行われる部屋に入って、王と対面するまで腕が離されることはなかった。
妹ちゃん、俺リストラされちゃった・・・でも、スキル「倍返し」で無双します~ アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork
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