第2話

 来たる2日目。と言いたいところだが、寝る前に団体からメッセージが来た。

 すぐに確認する。


『2日目の指令。明日、4時30分に起きて、近くのショッピングモールの写真を撮り送れ』


『尚、これから毎日必ず4時30分に起きること。起きたらすぐにメッセージを送るように』


 随分と早い時間だ。これは早寝をしても寝不足かもしれない。今の時刻は22時。とにかく早く寝なければ。

 4時30分にアラームをセットしてからスマホを充電して、布団をかぶり目を瞑る。そうすると段々身体中の力が抜けてきて、いつの間にか眠れた。



 今度こそ来たる2日目。

 私は4時30分に起きて、団体にメッセージを送信する。


『起きました』


 数分と経たずにメッセージが返信される。この団体も4時30分に起きているのだろうか。


『では、昨夜に出した指令を今日中にこなせ。二度寝は絶対にするな』


 淡白な返事だ。最初の低姿勢はどこへ行ったんだ。偉そうだな。

 昨日は精神的に混乱して従ってしまったが、今思えばまだ怪しい。

 でも、道を指し示してくれたから、コンプレックスを的確に当てたから……本物……??

 起きたばかりの頭で考えていても仕方ない。学校に行く準備をしよう。




 眠い。

 学校に来たばかりなのに眠い。

 何もする気が起きない。


「ねーねー綾音〜」


 眠気を誤魔化すためにスマホを見ていると友達の南波紗奈なんばさなが来る。机に手をついて、私に話しかけた。

 だるい表情筋を無理やり動かして彼女に返事をする。


「なに?」


「なんか眠そうじゃん。どしたの?」


「ちょっと……寝不足で」


 よくわからない団体からの指令の所為で眠れていないとは言えない。

 紗奈はふーんと言うと、顔を私に近づける。


「で、今日は野村に何する? 弁当に虫入れる? それとも頭から水ぶっかける?」


 野村というのは、クラスメイトの野村紫音のむらしおんのこと。髪が長くてボサボサで、メガネをかけたどこから見ても陰キャって感じの奴。

 私はその野村をいじめている主犯格だ。理由は特にない。ただよく一人でいたから標的にしただけ。

 毎日何かしらのことを彼女にしているが……今日は眠くてやる気がでない。


「今日は……いい」


「いいの?」


「やりたきゃ勝手にやれば……ねむい」


「? わかったぁ」


 紗奈は少し怪訝そうな顔をしてから、前の席で一人本を読んでいる野村に絡みに行った。全然怖がられてないけど。

 ちょっと頭が弱いからそういうこというの苦手みたいなんだよね。ほら、今もなんか一昔前のヤンキーみたいだし。

 違う。今そんな場合じゃなかった。とにかく寝ないようにしないと。

 そうだ。コーヒー買おう。そう思い席を立つ。

 ふと、野村と目が合った。

 じーっと私のことを見ている。いつもなら睨み返しているところだがそんな気力はないのでさっさと無視して自販機へ向かった。


「なに綾音にガンつけてんだおらぁ!!」


 うん。やっぱり紗奈悪口下手だな。




 放課後。

 眠気を乗り越えていつも来ているショッピングモールへ来た。

 全体と看板が移るように写真を撮る。まあだめだったら団体から何かしら言われるだろう。

 トークルームに写真とメッセージを送った。


『撮りました。これで大丈夫ですか?』


『大丈夫だ』


 そう返されて会話は終わる。会話の終わりをスタンプで締めるような私たちにとって少し不安な終わり方だ。

 とりあえずこれで2日目は終わり。これが50日も続くのか。

 やりきれるのだろうか。

 今日は悩んでばかりだな。




  3日目。早起きにはまだ慣れない。

 団体に例のメッセージを送ると、指令が来た。


『3日目の指令。ホラー映画を3本見ろ』


 ホラー映画を3本?

 今日は休みだから良いけど、ホラー映画か……自分から見ようと思って見るものではない。

 月額制の動画配信サイトの中から気になったホラー映画を探して見ることにした。



 見た。

 まだ暗いってのに見るんじゃなかった。

 平気で人の身体がバラバラになったり血吹き出したりする。びっくりする表現も多いし。

 12日の木曜日、SEE、悪魔のささげものめ……。

 見た映画のあらすじページをスクショして団体に送りつけながら、心臓をバクバクとさせていた。脳裏からあの映像が離れないのだ。

 急に頭が潰されたり、首がおっこちたり、腕がありえない方向に曲がったり。


「……ひぃ〜っ」


 思い出すうちに鳥肌がぞわわわと立ってくる。ああいう映画を好む人達もいるのだから驚きだ。相当耐性がついているのだろう。

 私は無理だ。何度見ても慣れる気がしない。青春系の映画の方がやっぱり好きだ。

 というか、なんで私こんな思いしてるんだっけ。


 ……そうだ、サルバシオン。サルバシオンって団体からメールが来たから。


 なんで私のことを知っているのだろう。他に誰かこういうこと送られてないのかな?


 Tmitterやインストグラムで検索をかけてみるが、サルバシオンという団体については一切出てこなかった。私に来たようなメールが来たという報告すらなく、出てきたのはサルバシオンという言葉の意味だけ。


「スペイン語で救済、ね……」


 本当に救ってくれるのだろうか。信仰心みたいなものが揺れている。1日目の私はどこへ行ってしまったのか。

 この一見意味のないような行為が私を救ってくれるの?


「……あー……考えたって仕方ない。二度寝しよ」


 ホラー映画で見た内容をもう一度夢で見ないように願いながら、私は布団を被った。






「……これが3日目までの経過だ」


「うわ〜、いつカメラ仕掛けたんですか。怖いですね」


 小さな会議室のような部屋でプロジェクターに映し出された映像を見て、女性は若干引いていた。

 プロジェクターの横にいるもう1人の女性は、引いている女性を気にせずに話し始める。


「私は目的のためならば手段を選ばない。例え君からの信頼を失ってもね」


「うーん、まあ貴方らしいというかなんというか」


「では、続きを見よう。更に面白いことになっているはずだからな」

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救済団体サルバシオン 雨宮そぼろ @Soboro13

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