救済団体サルバシオン
雨宮そぼろ
第1話
私のスマホに一通のメッセージが届いた。
『
「救済団体サルバシオン?」
夜の19時、謎の文章に思わず声に出してしまう。
詐欺か何かだろうか。なんかのサイトから本名が流れてきてしまったのかもしれない。
今時
『あの、なんなんですか?』
『貴方は今、救われたいと思っていますか?』
話が通じない。
宗教勧誘をされたときのような気持ち悪さを覚えてメッセージアプリを閉じようとすると、アプリのリンクが送られてきた。
そのアプリの名前はココアトーク。
韓国版のLIMEみたいなもので、ネットでは浮気や不倫がバレにくいアプリとよく言われている。
『救われたいと思っているのなら、このアプリでお話しましょう。必ず貴方を救済します』
相手はそう断言する。
詐欺メールにしては意思が強い。
しかしこんな詐欺メールも珍しいなと思い、面白半分でココアトークをインストールした。
どうせくだらない話を聞かされるだけだろう。少なくとも危ない目には遭わないはずだ。インストールをして、アカウントの情報を一通り登録してから返信する。
『インストールしました』
『では、トークルームにご招待します。URLを押してください』
団体から送られてきたURLを、私は何の躊躇もなくタップした。すると、すぐにココアトークに飛ぶ。
ココともというものに団体を登録して、トークルームに来た。
『では、救済方法を説明いたします』
なんだか厨二病みたいだなあと思いながらも、そのままスマホの画面を見つめる。
分間隔でメッセージが送られて来た。
『貴方には今日から50日間、1日に1つ指令を与えます』
『それを完遂できれば、貴方は救済されます』
『指令を1回でもクリアできなかった場合は、ペナルティがございます。ご注意ください』
なんだかゲームみたいだ。それも映画に出てきそうな感じのゲーム。まさか自分がすることになるとは思わなかったけど。
どんな指令が与えられるのだろうか。
『ではまず1日目。姿見に映った貴方を撮って送ってください。その際、顔も写してください』
簡単な指令だった。
一体何が目的なのだろう。
とりあえず部屋にある姿見に私の全身を映して、写真を撮った。ちゃんと自分の顔も入れて。
送る前に自分の顔が写った写真を他人に送っても良いのだろうかと一瞬躊躇したが、SNSに自撮りを載せてたことがあるので、その疑問はすぐに解消された。
写真と共にメッセージを添えて送る。
『撮りました』
するとすぐに団体から返信が来る。
しかし、その内容は先程までとは違った。
『めっちゃデブだな』
「えっ」
『だらしねえ身体』
突然の罵倒に、私の思考はストップする。それと同時に思い出す。
小中学生の時、醜く太っていたせいで虐められた過去を。
あんなの、もう思い出したくないのに。鏡を見るのすら嫌になった時期があったのに。
フラッシュバックと冷や汗が止まらない。いやだ。いやだ。
『このブタ女』
違う
『デブス』
違う違う違う
私は生まれ変わったんだ。頑張ってダイエットして、同級生が行っていない高校へ行って、高校デビューしたんだ。
もう違う。
『まだ努力が足りないんじゃないの?』
じゃあどうすれば良いの。あんなに努力したのに。
『変わりたければ指令を完遂しろ』
『そうすれば道が開いて、救われる』
救われる?
『本当ですか』
震える手で文字を打ち、送る。
すぐに返ってきた。
『もちろん』
救われたい。
たかがこんな他人の言葉を信じているのも馬鹿馬鹿しいのかもしれない、けど。
もう二度とあんな思いはしたくないから。
『やります』
その言葉を送った時には、先程までの詐欺メールだのと馬鹿にしていた考えがすっかり消えていた。
この団体は本物なのかもしれない。いや本物だ。私の過去をピンポイントで突くような言葉を送ってきたのだ。何も知らないはずなのに。
だから、本物だ。
こうして、私の人生の50日分を、この団体に捧げることになった。
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