後編

「えーっと、これより第……?」


「53回」


「ああ、そうッス。53回目のゴーレム対策会議を始めます。敗因について意見はないッスか?」



 ビシッと手を挙げる。ランスは気が進まなそうに眉根を寄せながら、僕を差した。



「敗因といえば、リーダーが道中のミニゴーレムにクリティカルヒットくらって死んだことでは?」


「誠に申し訳ございませんでしたーっ!」



 足元に注意しすぎて頭をガツンとやられたそうで、ランスはいつも通りゴーレム戦の時には姿を消していた。その後の流れもいつも通りだった。



「俺がリーダーの時が1番いい感じだっだんじゃね? やっぱガンガン攻めればなんとかなんだよ!」


「でも、それだとこれから何回かかるかわかんないねー」



 悔しいことに、第51回にナックルの指示で総攻撃を仕掛けたときはゴーレム相手に押すことができていた。例によってナックルが伸びるパンチで死んだ途端に総崩れになったが。


 考えるより先に動くことが効果的に働く例もあるとわかった。だが、勝てるくらい身体で覚えるには、何度死ねばいいか検討もつかない。



「ここはオレが新しい作戦思いついたからまたリーダーやろっかなー」


「ワンド、貴様は2度と指揮するな」



 第52回は地獄のようだった。なんせ1番の敵は味方である。指示通りに動くとあれよあれよと言ううちにピンチになり、死にかける。だが、それがギリギリ生き延びられるからなおのことタチが悪い。


 過去最高に戦闘が長引き、ゴーレムの戦闘パターンを改めて確認できたのは良かったかもしれない。そう思い込まないとやりきれない。



「その、ソードさんにひどいこと言って申し訳なかったッス。やっぱりリーダーはソードさんがいいッスね」


「ははっ……あははははっ!!」



 否定しておいて調子のいいことだ。でも、悪い気はしない。僕もちょうどそう思っていたところだった。



「なんだなんだぁ? 急に笑い出しやがって、死にすぎてついに気が狂ったか」


「ごめんね、ソードくん! オレたちが不甲斐ないばかりに……フフッ」


「狂ってない。あと喜ぶなサイコ野郎」


「じゃあどうしたんスか……?」


「見えたんだ、俺達が勝てる道筋が。すまなかった、ランスは間違っていなかったよ」



 リーダー役から退いて、自分が復習に囚われ、そして上手く復習を活かせていなかったと自覚できた。



「行くぞゴーレム……! 復讐のときは来た!!」






 ―――――――――――――――――――――――







 ナックルを先頭に、ランス、僕、ワンドの順で一列になって聖域を出る。罠の位置を覚えられそうにもないナックルがなぜ罠では死なないのか。今まで疑問にも思っていなかったがこの男、第六感としか言いようがない感覚で罠を避けていた。こいつは本当に獣かなにかではなかろうか。


 ひょいひょいと先へ進むナックルへ続きながら、僕が後ろからランスが罠を踏まないようにカバー。ミニゴーレム戦を罠のない地帯で行えるように誘導もする。



「すごいッス! ボク、生きてる……!」



 無事にボス部屋へたどり着けただけで喜んでいるランスとは対照的に、早速ナックルがゴーレムへ突っ込んで行った。ゴーレムの初手は2分の1の確率で伸びるパンチだ。下手するとナックルはここで沈む。


 今回は運良く、目からビームを出してきた。目が光る事前動作と頭の向きで挙動が読みやすい攻撃をナックルはしっかりかわし、跳躍。ゴーレムの腕を踏んでさらに高く跳び、勢いよく頭をぶん殴る。


 石頭に傷がつくも、破壊するにはまだ足りない。ゴーレムがビームの照準を宙にいるナックルへ向けた。



「ワンド! ナックル救助!!」


「はいよー! 〝我が声に従え。水よ、鞭と化せ。ウォーターウィップ〟!!」



 ワンドの杖を軸に、魔法の水の鞭が作られる。自在に伸びる鞭はナックルの足を絡め取り、地面へと叩きつけた。



「いってぇえええっ!?」


「フフッ、ビームの直撃避けられたんだから感謝してよねー」



 明らかに叩きつける必要はなかったが、それでワンドの嗜虐心が満たされるのなら尊い犠牲だ。ナックルは文句を言いながらも、再びゴーレムへ向かっていった。



「こっちだ! デカブツ!!」


「こっちにもいるッスよー!」



 僕とランスでゴーレムの足に一撃を入れては離脱し、ターゲットがナックルだけに向かないように気を引く。


 ナックルが一撃入れてヘイトを取ってしまったら、ワンドが手荒なフォローで攻撃を避けさせる。苦手な伸びるパンチも、同様の手酷いフォローによって回避できていた。


 いつになくうまく回っている。復習事項を完璧に覚えている僕がゴーレムの行動パターンを読み、仲間に合わせて指示する。


 ワンドは囮役をやらせるよりもナックルを操縦させているほうが、戦況的にも精神的にも安定して立ち回っている。言っても聞かないナックルに対し、想定以上に良い枷となっていた。


 水の鞭であっちへこっちへ引きずり回されているナックルは、悪態をつきながらも今までで一番長く生き延びて、コンスタンスにダメージを与えられている。


 ランスは持ち前の悪運が働いているのか、ゴーレムの気をよく引いていた。初めて戦う割には指示の通りがよく、戦闘の合間に理由を問えば、『予習のおかげッス』と笑う。


 攻防を繰り返すうちに、ついにナックルの強打がゴーレムの頭を破壊する。だがその直後、ナックルは助ける暇もなくゴーレムの手になぎ払われ、落ちたところを踏み潰された。


「くそっ……! あと少し、だろうが……」


「ワンド、ナックルの状態は!?」


「イイ苦悶の表情だね!」


「貴様の感想は聞いていない!!」


「戦闘続行は不可能。今にも聖域送還されるよ」



 ワンドの言葉通り、ナックルの姿が光って消える。


 本当にあと少しだった。ゴーレムの頭のコアはむき出しになっているというのに、ナックルほどのパフォーマンスがなければあの位置に直接攻撃を当てるのは難しい。



「リーダー、指示はー?」



 もたついている間に、ゴーレムのコアが光る。放たれたのは多方面へのビーム。頭があるうちはよけやすかった攻撃が、狙いがわかりにくく手数の多い厄介な攻撃になってしまった。


 ビームは10秒ほど続き、2秒のインターバルを取ってまた放たれる。避けるのに精一杯で近づくことすらままならない。ゴーレムはそこへさらに伸びるパンチまで加えてきた。


 法則性がわかればいくらか勝算も見えてくるが、このままでは、そこまで分析を進めるまでにまた何度も死にそうだ。



「頭部を狙ったのが間違いだったのか……?」



 第26回以降、ずっとこの方針で来ていた。それが間違っていたとしたら、長く意味のない復習をしてしまったことになる。



「せっかくここまで連れてきてもらえたんス! もう無能とは言わせないッスよ……!!」


「ランス!? 無茶だ……!!」


「勝手なことして申し訳ないッス! でも、ソードさんには復習に縛られないで欲しいッス!!」



 ビームの止まる間にランスが走り出し、ゴーレムとの距離を詰め、勢いをつけて槍を投げる。槍は見事にコアへ命中してヒビを入れた。ランスはビームに蜂の巣にされ、光となって消える。



 ランスの言葉に目が覚めた。復習はそれ自体が目的ではなく、未来を掴むための手段だ。僕はそこを履き違えていたとせっかく自覚したのに、もう忘れそうになっていた。



「おおー。オレも杖投げる?」


「当てられるのか? 俺は剣投げても外す可能性高いぞ」


「うん、無理」



 コアの損傷により、ビームの間隔がまばらになっている。ランスが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。



「ワンド、俺が跳んだら風魔法で後押しできないか」


「おっけー。一発勝負する気? 珍しいね、イイじゃん。〝我が声に従え。風よ、剣と化せ。ウインドソード〟」



 ワンドの杖が、今度は大剣へと姿を変える。

 ゴーレムが頭上への攻撃手段に乏しいのは過去のナックルの動きで復習済みだ。



「行くぞ!」


「はいはい! 〝風よ、舞え〟!」



 ビームの合間を狙い、風に後押しを受けてゴーレムの頭上へと跳ぶ。剣を構えて降下、コアに突き刺す。剣はコアを貫通し、ゴーレムの巨体がガラガラと崩れた。


 足場がなくなり、先程までゴーレムの一部だったガレキと一緒に落ちる。着地した背中が痛いが、生き埋めはまぬがれてほっとした。



「やっほー、生きてる?」


「やった! 勝った、勝ったぞ!!」


「うんうん、良かったね。ところで、ゴーレムのコアが意味ありげに点滅してるけど大丈夫?」


「……そういえばミニゴーレムって、倒したときに爆発…………」



 閃光、爆音、熱風。痛みは一瞬だった。







―――――――――――――――――――――――






「これより第54回ゴーレム対策会議を始める!」



                 (終わり)俺たちの戦いはこれからだ!

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何度でも、復習を 餅々寿甘 @kotobuki-amai

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