第20話「エピローグ」



「私に娘さんを頂けませんか?」


 突然の私の言葉に、ステラのお母さんであるセレストさんは固まっている。


 あの時はルキフェルさんから出される試験のことで頭がいっぱいで、セレストさんにはちゃんとあいさつするのを忘れるというとても失礼なことをしてしまったのだ。


 固まっているセレストさんに、私は言葉を続けていく。


「あいさつするのが遅くなってしまって本当に申し訳ありません」


 私はセレストさんに向けて深く頭を下げた。


 ステラの家に泊まらせてもらった時に少し挨拶をしたにはしたが、時間も時間だったため軽いあいさつ程度で済ませてしまっていたし、次の日もルキフェルさんの試験があったため、早々とステラの家をあとにしてしまっていたために、本当にあいさつをするタイミングを逃していたのだ。


「顔を上げて、リンクスさん」


 私が頭を下げていると、頭上から優しい声が降りてくる。


 私が驚いて顔を上げると、目の前には優しい微笑みを携えるセレストさんの姿があり、その表情がステラが優しく微笑むときと重なって、ああ、やっぱりこの人はステラのお母さんなんだということを実感させられる。


 年上の女性にリンクスさんと呼ばれるのは、少し気恥ずかしさというか何とも言えない感情になってしまうので、私は「リンクでいいです」とこぼしてしまう。


 そんな私の言葉にセレストさんは、淡くほ微笑むとそれじゃあ「リンクさん」と私のことを呼び直している。


「こちらこそ、娘のステラのことを助けて頂いた上に、一緒に生活までさせてい頂いていたのに、お礼を言うのが遅くなって申し訳ないと思っていたのよ。だから、改めて言わせてね。娘を助けてくれてありがとう、リンクさん」


「あっ、いえ、むしろ助けてもらったのはこっちなので……」


 本当にステラには色々と助けてもらった。


 もし、あの時私がステラと出会っていなかったら、いまの私はなかったと言えるだろう。


 いやいずれは合格しておばあちゃんから喫茶店を引き継いでいたのかもしれない。だけど、もし仮にそれで喫茶店の営業を始めていても、それで誰かを幸せにすることは出来なかったかもしれない。


 おばあちゃんが営業していた時のような雰囲気を作り出せなかったかもしれないのだ。


 色々な可能性が考えられる中で、この可能性へと行き着いたのだ。


 それを『幸福』と呼ばないで何を『幸福』と呼べば良いのだろうか。


 それにステラと出会えたからこそ、私は『魔法の料理』を知ることが出来たのだ。


 だからこそ、私はステラに出会えて『幸福』だと胸を張って言えるだろう。


「私はステラと出会えて本当に良かったって思ってるんです。ステラと一緒に喫茶店を営業をしていて、お店はいつも笑顔で溢れていました。それもステラが作る料理や、ステラの笑顔がそうしているものだって思ってましたし、私一人では絶対に作り出せなかった空間だと思います」


 私の言葉を聞いていたセレストさんは、嬉しそうな表情を浮かべながら頷いている。


「そうですか。うちの娘はちゃんとリンクさんの助けになっていたのですね」


「もちろんです。ステラは私の支えですから」


 きっぱりと言い切った私の言葉に、セレストさんは最初は驚いたような表情を浮かべていたが、やがて私に向かって頭を下げてくる。


「リンクさん、娘をどうかこれからもよろしくお願いします」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


 私も慌ててセレストさんにもう一度頭を下げるのだった。


 そんな私とセレストさんの様子をステラは恥ずかしそうに、だけど、どこか幸せそうに見ているのだった。


***************************


「そうかい。リンクはそうすることを選んだのか」


「うん。おばあちゃんには申し訳ないけど、そうすることにしたんだ。せっかくお店を譲ってくれたのに、おばあちゃんには申し訳ないことをしたけれど」


 私は『カシオペヤ』に戻ってきて、これからの報告と荷物を取りに来ていた。


 ちなみにステラは『ケフェウス』に残ってもらっている。すぐに終わる用事だったので、私一人で帰省したのだ。


「どうして、リンクが謝るんだ。私は言ったはずだよ。あんたがどんな答えを出したとしても否定しないって、誇れる答えを出しなって言ったはずだよ。それでどうなんだい? 誇れる答えを出せたのかい?」


 私はそのおばあちゃんの問いかけに力強く頷いた。


「うん! 誇れる答えだよ! きっと私は今回の選択を後悔することはないと思う。むしろ、今回この選択を選ばなかったら一生後悔すると思う」


「なら、いいじゃないか。あんたはただ胸を張ればいい。自信を持ちな」


「うん、ありがとうおばあちゃん!」


「それにリンク。帰りたくなったら、いつでも帰って来て良いんだからね」


「うん!」


 私はもう一度、おばあちゃんにお礼を言うと、喫茶店『プハロス』に戻り荷物をまとめて『ケフェウス』の村へと戻る準備を進めるのだった。


***************************


「ステラ、そっちの用意は大丈夫?」


「うん、こっちは平気だよ。リンクちゃんの方は?」


「こっちも問題ないよ。それじゃあ開店しよっか」


「うん!」


 ステラの返事を聞いた私は、頷くと店の入り口にかけているCLOSEの表札をOPENへと変える。


 『リンクスとステラの喫茶店』


 『ケフェウス』の村で信用を勝ち取った私は、ステラと一緒にこの村で喫茶店を開くことにしたのだ。


 そして、今日こうして開店する運びとなったのだ。


「お客さん、来てくれるかな?」


 どこか不安そうにそう聞いてくるステラに、私はステラの手をぎゅっと握った。


「きっと大丈夫だよ」


 根拠はないけど、きっともう大丈夫だと思うし、ステラの料理は人を幸せにすることが出来るのだ。だから、きっと大丈夫。


 私が笑いかければ、ステラも不安そうだった顔に笑顔を咲かせている。


「うん! そうだねリンクちゃん!」


 そうこう話していると、来客を告げるベルが店内に響く。


「「いらっしゃいませ!!」」


 私とステラは笑顔でお客さんを出迎えるのだった。


                                fin.

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リンクスとステラの喫茶店~ステラと魔法の料理~ @doumu

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