およそ叶うはずのない逃避行

 生贄に捧げられることが決まった少女とその兄の物語。

 ファンタジーです。タグによれば「メソアメリカ風」と、なかなか珍しい舞台設定のお話。
 分量にして約3,000文字とコンパクトなこともあり、この先はネタバレを含みますのでご注意ください。



〈   以下ネタバレ注意!   〉

 悲劇も悲劇、胸にぶっ刺さるようなお話でした。
 まず逃げられるはずのない、でもとてもそうせずにはおれなかった、衝動的ながらも必然の逃避行。それがおおよそ思った通りの結末を迎えて、つまりはある程度は〝わかっていた〟つもりが、でもこんなにも胸にグサグサくるのはどうして?
 なんというか、まんまと手のひらで転がされた感じです。情動を作者の意図通りに揺さぶられるような、この読書感覚の心地よさ。

 結びが好きです。あの重苦しさ。文章越しに伝わってくる、まるで押しつぶされるかのような苦しみとその先の絶望。
 非常にシンプルなお話のようでいて、でもきっちりツボを押さえてくれるお話でした。単純に読みやすいところも好き!