小鳥のロロ

雪猫なえ

小鳥のロロ

 綺麗な空を飛びたいな。


 僕は不意にそう思った。僕の名前はロロ。烏(からす)のロロ。僕は最近、こんなことを考えるようになってしまって困っている。前までは、考え事なんて、しなかったのに。最近になってすっごくいっぱい考える。僕は、何でこんなに考える鳥になってしまったんだろう。

 お母さんと生き別れて自立したあの日から、僕は考えて生きなければいけなくなった。でも、生まれつきそうだったのか、僕は日々ぼうっとして生きてきた。それで問題なかった。餌も不思議と手に入って、寝床や遊びにも困らなかった。案外この世の中はうまく出来てるらしい、そんな風に思うだけで、特にこれといった考え事はしてこなかった。

 そんな僕のもとに、ある日ミミズがやってきた。ミミズは僕を恐れてはいなくて、逆に食べる気分にならなかった。だから、烏の気まぐれだと銘打って、話しかけてみたんだ。


「やあ、こんにちは。君、ミミズだよね?どうしてこんなところにノコノコとやって来たんだい?僕に食べられちゃうと思わなかった?」


 きょときょと動く首を存分に動かして僕は聞いた。すると、恐怖に怯える様子も

 体を竦ませる様子も見せずにミミズは言ったんだ。


「怖くなかったからね」


「え?」


「君、怖くなかったから。僕のこと、食べないかなって、ちょっと賭けてみたんだ。そうしたら、僕の大正解だったね。やっぱり君は優しい烏だった」


 にっこりしてミミズはそう言った。いや、僕にもミミズの表情なんて見えないんだけどね?烏の勘ってやつかな、聞いたことないけど。そう、きっとミミズは笑って言った。


「優しい烏……?そんなのって、存在するのかなあ」


「するさ、きっと。この世は可能性で満ちてるんだよ。現に君がそうじゃないか。僕を目の前にしても食べようとしない」


「うーん」


 僕は首を捻った。


「そうかなあ。僕のお腹が空いてないだけで、もしかしたら突然バクッと食べちゃうのかもよ?ほら、君たちって平均的に足が遅いでしょ?」


「あはは、面白いこと言うね。平均的だなんて、やっぱり君は優しいよ」


 今度ははっきりと笑って言った。このミミズこそ可笑しな奴だと僕は思うんだけど、みんなどう思う?


「そんな優しい烏さんに一つ美味しそうなお話を持って来たんだけれど、聞いてみるかい?」


 ミミズはそう言った。何だろう、美味しそうなお話?


「美味しそう、ってどういうことかな」


「おおいい食いつきっぷりだね。僕は好きだよ、嬉しいなあ」


「ねえねえ、どういうこと?」


 好奇心のまま僕はミミズに聞いた。


「そう急がないでよ。美味しそう、つまり美味しくなるかは君次第なんだ」


「僕次第……」


「そう。あのね烏さん、君は毎日高い高いお空から僕達のように地上にいる生物を見ているよね」


「うん……まあ」


「そんな君達には、どんな行動もお見通しだと思うんだ」


「うん……多分そうかも?」


「あはは、自分達の生態について随分曖昧な烏さんだね。こりゃ確かに優しいのとは違うかもしれないね」


「はあ……」


「兎に角、そうなんだよ。そうなんだけどね烏さん。君達、自分達に知らないことはないなんて思ってないかい?」


「え……思ってないけど」


「あははー、そうだね、君には通じない質問だったかもね。まあいいんだ。他の烏達はきっとみんなそう言うから」


「そう、なんだ?」


「うん、少なくとも過半数はそう言うと思うよ」


「へえ……ところでかはんすーってなあに?」


「本当に面白い烏だね、君は。半分以上の烏ってことだよ」


「あ、そういうこと」


「そう、それでね、君達に言いたいことがあるんだ」


「うん」


「君達にだって、知らないことの一つや二つぐらい、あるんだよ」


「……」


「ってね。まあ君にとっては、はあそうですかって感じなんだろうね」


「うん」


「君達の知らないこと……あのね、この世には、魔法が存在するんだよ」


「……あのさ、ごめん流石にわかんないな」


「うん?何だい、君もやっぱり信じてくれないのかい?」


「いや、そうじゃなくてね、まほーって、何?」


「……マジか」


「ま……?」


「そうか、君は魔法という言葉も知らないで生きてきたんだね」


「うん……」


「魔法っていうのはね、万能のことだよ」


「ばんの……」


「何でも出来るってことさ」


 僕が聞く前にミミズは答えた。


「君に、何でも出来る力を手に入れるチャンスをあげたいんだ」


「わーい」


「素直だなあ」


「だって、嬉しいことでしょ?」


「君は、疑うことを知らないの?怪しいとか、そんな訳ないとか、何か裏があるんじゃないかとか」


「えー?」


「君には言うだけ無駄らしい。じゃあいいや、進めよう。あのね、この世に魔法はあるんだよ」


「うん」


「魔法を手に入れたいって思うかい?」


「うん」


「じゃあ、探してみるといい」


「どこを?」


「それが自分で考えてみてよ」


「えー、最近考え事が多くて困ってるのに」


「そんなこと言われてもなあ」


「ヒントぐらいちょーだい?」


「ヒントか……そうだね、君の一番近くて遠い所だよ」


「え?」


「頑張ってね」


 そう言って、ミミズは姿を消した。

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小鳥のロロ 雪猫なえ @Hosiyukinyannko

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