ネットで物語を書く男子高校生。氏名も顔も明確にすることなく物語を綴ることの喜び、苦悩。そして、それを受け止める顔も知らない読み手との掛け替えのない繋がり。この作品には、インターネットという媒体の上で言葉を紡ぐからこそ味わう様々な感情がギュッと濃縮されています。
ドキュメンタリー的な主人公の硬質な語り口は、この作品の空気にとても相応しく魅力的です。淡々とかつリアルに描かれる、ネットの向こう側の人々との繋がり。苦悩、喜び、ほのかな期待。そして予想を覆すエンディング。ほろ苦くも温かいラストは、どんでん返しを狙ったようなわざとらしさを感じさせず読み手の心に深く響きます。
このサイトで物語を綴る方にも、読み手の方にも、是非味わっていただきたい深みのある物語です。
レビュータイトルは百人一首にも収められている中納言兼輔の和歌「みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ」より引用させていただきました。素晴らしい現代語訳はたくさんあるので各自調べていただいて、掛け言葉などを無視したざっくり翻訳でお送りしますと「見たこともない人に恋をしてしまった」という和歌でございます。上の句の描写も相まって、三十一文字でこんこんと湧き上がる恋心を表現した美しい和歌です。
このように見たことのない人に恋をする、ということはけっこう歴史があるものなのですが、そこにインターネットが関わってくる、というのがなんとも現代的。ですが時代は移ろえど、変わらないものは恋心なのかもしれません。カクヨムユーザーなら手に取るように理解できるであろうインターネットのリアルな描写と瑞々しい恋の表現が不思議とマッチして、爽やかな読後感が魅力です。
幾つもの時代を経て変わったもの、変わらないもの、そして何より刺激ある恋愛小説が読みたい方へ、オススメです。
小説を書くことが好きな主人公・凛緒は、SNSでとある物書きと出会います。
たった17文字で、向日葵を素晴らしいままに表現した有紀。凛緒はその17文字に感銘を受け、その有紀とささやかな交流を続け、いつしかその存在は大きくなっていきました。
そして。その有紀の正体が、ちょっとしたことから判明しそうになるのですが──。
ネットの物書きだったら、似たような経験を持つ方は多いのではないでしょうか。誰かの作品に感銘を受け、自分の書いた物語を「素晴らしい」と褒めてもらえる細やかな交流。それはきっと、世界は優しさで出来ているからではないのかな、なんて思ったりするのです。
人間が持つ当たり前の「優しさ」。その素晴らしさを再認識できる、とても優しい物語。物書きの皆さんにこそ読んでほしい、素敵な物語ですよ。とても、オススメです!
こちらの作品を読ませていただいて、とても感心することが多かったです。
まず、題材の扱い方がとても上手だと思いました。
16字で表現したり、140字で小説を書いてみたり。そういう試みは、SNSならではだと思います。そこにスポットライトを当てて創作されている点が、とても面白いと感じました。
また、この物語の背景に広がるネット社会のありようや、現代社会そのもののありようも感じられ、今の時代がよく表されているように思います。
ネットに傷つき、他者に励まされ、また心の繋がりを感じ……今を懸命に生きる人の姿がそこにあります。
こういう作品がもっと評価されるといいなと思い、拙いながらレビューを書かせていただきました。