第19話 エージェントmasiro

「『外』からの取引ねぇ…メリットがあんまり感じられないんだよなぁ。そこら辺は何か聞いてないの?」


「あくまで、あくまで噂だが誰かを探しているらしい。本格的な武器の取引を始めたのはつい最近で…1年前くらいかな?」


「ちょうど仕切り始めた時ら辺ですね。」


そんなこと前も言ってたな。たしかいきなり現れたって言ってたがその前から存在していたのか。


「取引相手が変わったのか、取引相手の地位が上がったのか…活動自体は変わってないんで後者ではないかなと思ってる。」


「活動?」


「『外』から逃げてくる犯罪者を直接手を下さずバンダナ集団に処理させてるんだ。」


イリスかこっちへ勢いよく振り返る。おい、そんな目で俺を見るな。

なんか凄い心配になってきたな、俺も処理されるかも。

それにしてもよくここまで調べられたもんだ。


「結構詳しいんだな。あれ?マシロさんはもしかして『外』から来たとか…」


「いや、俺の出身はジャポネだ。惑星自体遠いから知らないだろうがな。」


「いや、聞いたことはある。鎖国状態の惑星が太陽系に存在しているが、その惑星の中にある国の一つだろ?前にどっかで見たことがある。」


太陽系、知的生命体が存在する惑星が一つしかない惑星系だ。一つの物珍しさに研究界隈で密かなブームがあったらしいが、今は名前すら聞かない。


「物知りですね…さすが研究者。」

イリスが羨望の眼差しで見る、少し嬉しいが否定をした。


「俺は別に惑星の研究なんてしてない。それで話を戻すが犯罪者始末する代わりに武器貰ってて仲良さそうに見えるんだが何で裏切ろうとしてるんだ?」

単純な疑問だ。王家側にさえ厳しく当たりアストラルシティを無いものに出来るほど権力を持ってるんだ、普通だったらヘコヘコこうべを垂れて虎の威を借るのが定石だ。

裏切るほどの何かがあったのか、それとも元から仲良くする気がないのか。


「元々バンダナ集団は利用だけして裏切ろうとしてたらしい。今回の武器の仕入れで手を切ることは無いだろうが着々と武器を増やしているのは確かだ。」


「そっちか…そうか、制圧ねぇ…なんとか説得して協力してもらうことは出来ねぇかな?」


「無理だな、絶対に。」

即答、そこまでヤバい奴らなのか。


「なんでです?」


「バンダナ集団のトップがイカれてるからだよ。考えとかがアンタらとは全然違う。」


「制圧とか滅ぼすなんていう表現使うんだ、攻撃的なんだろうな。それで、トップってどんな奴なんだ?イカれてるって言ったって思想がぶっ飛んでるのかやりすぎちゃうタイプなのか…」


「どっちもだな。同じ事をやり返そうとしてるし、二度と繰り返さないようにダストシティごと管理するつもりらしい。」


「えぇ…でもよくそこまで調べられましたね。自分とは大違いっす。」

イリスは憧れの目でマシロを見る。そうか、そういえば俺と出会った時は全て知ってた風なキャラだったもんな。

でもまぁ、全部ヴァレンの手のひらだった訳だが…



「いやー分からないぞ。イリスさんみたいに全て勘違いしてる場合もあるしな。」


「信頼されてないんだな、互いに。だが俺の方は少なくとも多少の信頼を得られると思う。」


「ほぅ、なぜ?」


「これでも元エージェントだ。バンダナ集団の本部には何回も出入りしてる。」


「へぇ、元エージェントなのにこんな所に流れ着いたのか。ますます不安になってきたな。」


ダストシティなんてルヴトーで少し有名なゴミの街だ。それをわざわざ鎖国している惑星の小さな国のエージェントモドキが狙って行くような場所ではない。

ヘマして流れ着いたに決まっている。

エージェントってのはヘマしたらどんな手を使って情報を探られるか分からないから自決とかするんだ。

なのにのうのう生きているってことは、大した情報も持っていないか、些細な事にに怯え逃げ回り勝手に流れ着いた臆病者か…

どちらにせよ信用できない。


「流れ着いたわけではない、自分の意思でここへ来たんだ。」

マシロは否定する。


「こんな所まで?」


「ああ。この惑星に来たのは2つの理由だ。どっちも急に現れた事象だから調査を必要としていてね。」


「2つ?」


「1つはアストラルシティの宇宙開発がなぜ急に発展したのか、もう1つはルヴトーがなぜ急に力を付け始めたのか。ルヴトーの武器の密輸ルートを探ってたらルートの1つにここがあったから調査している。」

まるで自分の意思で来たわけではないような口振りで話すマシロに違和感を覚えた。


「ちょっと待てよ。元エージェントだよな?誰の指示で動いてるんだ?」


「サンソクっていうジャポネの会社だ。元エージェントの腕を買って依頼をしてくれた。」

サンソク…聞いたことがないが向こうでは有名なのだろうか。この国の動向を調べるあたり、もしかしたらルヴトーと同じ道を歩もうとしているのかもしれない。

しかし、そこまでくるとこの男のやっていることは元エージェントでは無いような気もする。


「会社の依頼で?国に潜入して?情報を得る…もうそれエージェントじゃん。」


「エージェントを育て派遣をしている組織から追放されたんですよ。それが意味することはエージェントとしての価値が無くなったってことです。」


「だいぶ厳しい世界なんだな。それにしてもだいぶ面倒臭いことになってきたな。密輸に裏切りに征服、おまけに独裁政治しようとしてるのか…」


分かりやすく頭を抱えているとイリスが肩を叩いた。

「目的は一緒かなと思いましたけど、結構違いますね…すいません、プリュマーさん。ちょ、ちょっといいですか?」

イリスは俺の手を取り少し離れた隅まで連れてきた


「?どうした?」

急にマシロを遠ざけ隅に行ったのだから恐らく内緒話だろう、声を最小限に耳打ちをする。


「いや、自分…正直、プリュマーさんより判断能力とかがあんまりないからどうこう言えないんすけど…これは何とかしておかないとマズイんじゃないかな…って。」


「…」


「いや、別に思ってることなんで、なんか策があるとかだったら全っ然気にしないで大丈夫です!」

大袈裟に首と手を振り否定する。そんなに自分のせいにされるのが嫌なかこの男は。


「まだ何も言ってないだろ…それに俺の意見よりもヴァレンの爺さんが許可とってもらう方が重要なんじゃねぇの?聞いてみようぜ。」


「え?それってつまり…」


「俺はとっくに覚悟は決めてたぜ。潰さなきゃマズイだろこんなテロ組織。」


「じゃあ事前調査は俺に任せておけ。」

コソコソ内緒話をしていた2人とは違う声が、2人の会話を遮断した。



「「!?」」


「き、聞こえてたのか!?この距離で!?」


明らかに小声で数メートル離れた場所にいたはずだ、聞こえるはずがない。


「言っただろ?俺は元エージェントだ。小さな音も聞き取ったり読唇術で言葉を読み取ることができる。」

マシロは得意げな顔をしてこちらに手を差し伸べた。

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プリュマー 華麗なるサクラゴン @sakuragon

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