第18話 ボランティアをしよう
「おはよぉ、俺はよく寝れたけどそっちは?」
身体を伸ばしながら挨拶をする。昨日は早くから寝たおかげでだいぶ調子が良くなっている気がする。
「普通っすね。」
「そうか。でもまぁ、今日からあれだ…治安を守る活動を始めたいんだけど…何から始めりゃいいのやら。」
前も言ったがダストシティで犯罪なんてそうそう起きない。病院もないし、生活にも慣れているため争いごとが発生しないのだ。
だから根本的な治安の悪さを抜いたら特に何も無い、マイナスがデフォルトなんだ。
「んー…ボランティア活動とか売名行為をすればいいんじゃないんですか?」
何を言い出してんだ、コイツ。
「どこで覚えたんだよその言葉…売名行為は置いといてボランティア活動ってこの街で出来るか?」
「それなら問題ないじゃないんすか?だってほら」
ウィィィィィィィィィィィィィン!
「この時間なら困ってる人とか見つけやすいんじゃないんですか?」
なるほど、ゴミ集めの時なら困っている人とかをちょくちょく見かけたことがある。それにこの時間はダストシティの人間はみんな集まって来るから売名も出来なくはなさそうだ。
「よし、ヒーロー活動やりますか。」
〜ゴミ捨て場〜
「みんなゴミ拾いに熱中してて、困ってる様には見えませんねぇ…」
「別に些細なことでもいいんだ、声をかける事に意味がある。見てろ。」
ゴミを漁っている老人に近づく。
優しい人間ってのは気遣いができる人間で、1歩先が読める人間だ。
ではこの状況から1歩先を読んでみよう。
目の前の老人はとても激しい運動が出来るような体には見えない。そしてその老人が持ち運ぼうとしているゴミはとても重そうだ。
そう、この老人はこれほどの荷物を持ち帰ることが出来るのだろうか?
「よぅ、爺さん。その荷物…重そうだけど…持つ?」
変に硬い笑顔ではなく、フランクに話しかける。
こういう気さくな感じが人の心を動かすんだ。
さぁ、爺さん。迷わず俺を頼ってくれ!
「追い剥ぎか?」
予想外の言葉だ。でもまぁまぁ、昨今の詐欺は息子や孫になりすましたりするから警戒心があるんだろう。
「いやぁ、別にそういうのじゃないんだ。急に力が溢れてきてな?なんか何でも出来そうな気がしてきたんだよ。」
「強引な力で何でも…やっぱり追い剥ぎじゃないか!」
「違う違う!ちょ、ちょっとちゃんと聞いてくれよ!」
「うるさい!もう関わらないでくれ!」
老人は荷物を持ちそそくさと立ち去っていく。
なんだ、運べたんじゃん。心配して損したな。
それよりも失敗から学んでいこう。
何が悪かったんだろう、もっと笑顔が足りなかったのかもしれないな。
「力持ってるから荷物運んであげるよ。」
「結構だ。」
「荷物持たせてみない?」
「自分で持てるし、意味がわからない。」
数十分後
「荷物…どう?」
黒髪の青年に声をかける。年寄りや年上ではなく、年下の若い層なら何か反応してくれるかもしれない。
「あんたか、噂になってる荷物運びたい男は。」
「え?」
なんだ噂って。ああ!俺が優しいってバレたのか!ダストシティの人間は相当シャイみたいだな。
「そういうのはやめといたほうが良いぞ、詐欺だと勘違いされてる。」
「え、なんで?」
「そういう前例があんのさ。まぁ何がしたいのかは知らないけど変な事はよしといたほうが良いぜ。」
はぁーあ、終わってんなぁ!ここの治安はよぉ!
〜ゴミ捨て場前〜
昨日壊した建物の瓦礫の山に座る。こんな所でつまづいて自分は一体なにをしようとしているのだろう、誰か教えてくれ。
「そんな気を落とさないでくださいよ、まだ時間はありますし。荷物運びだけがボランティアじゃないですって!」
「…そうだよな、別に荷物運びだけじゃないよな。あれだよ、大人とかいう心が汚れてしまった人達に話しかけたのが敗因だったのかもしれないな。」
「ま、ゴミの街で育ってますからね。」
「…俺は突っ込まないぞ。で、今度はもっとピュアな層に売り込んでいく事にする。」
ゆっくりと立ち上がりホコリを払う。
人は生まれた時は皆純粋だ。そこに賭けるしかない。
「先に言っときますけど、失敗する未来しか見えてませんよ?」
「まぁ、任せろって。」
〜1時間程経過〜
「すげぇー!本当にロボの腕だぁ!」
「ビーム出せんの!?ビーム!ビーム!」
6人の子供達が周りをグルグルしている。腕に装着された『サブマシンガンモード』にまるで魚のように食いついてくる。
「おい、見てろよ?出ねぇんだよ、これが。」
「出ないのかよぉー!」
イリスは、子供達がケタケタ笑っているのを見て、若干引きながら
「マジで仲良くなってきやがったこの人…」
と言った。
子供の軍団を連れて瓦礫の山に座り一息つく。
「まぁまぁ話を聞いてくれよ。」
「そうですね、ちゃんと聞かないといけませんからね。」
「本当に子供っていうのはピュアで分かりやすいもんだな。『サブマシンガンモード』見せたら着いてきてくれたんだ。」
「良かったですね、それでその子供達をどうするんですか?もしかして洗脳とか…」
「あぁん、そんな事はしない。子供ってのは意外と繊細で大人とは違う見方をするもんだ。だから何処が悪いとか何が欲しいとか聞けるんじゃないかなって思ってさ。」
子供達の方を向き質問する。
「なぁガキ共、今何が一番欲しい?」
子供達はしばらくあーでもないこーでもないと話し合った後、バラバラに欲しいものを言い始める。
「公園!遊び場が欲しい!」
「肉!野菜ばっかで肉を食ってみたい!」
「俺も遊べるとこ欲しいなぁ。でもやっぱり
「「「『外』のなんかが欲しい!!」」」
結構抽象的な答えが出てきたな。
「なんかって何だ?例えば食い物とか用品とかジャンルがあるじゃねぇか。」
「うーん、『外』のものであればなんでもいいんだ!『外』に出れないの分かってるし…!」
「これが現状ですよ。」
肩を叩かれ振り向くと、イリスが哀れみの目を向けていた。
「みんな『外』に出たがってる。だけど親の代から出られてないし出た人間なんて聞いた事がない。だから子供のうちに察してしまうんですよ、無理だって。」
分かりきったように哀れんでいるイリスを見て、何か心にモヤモヤした感情が出てくる。
違う、子供っていうのは…もっと…
「本当にそれでいいのか。」
「だからそのためにー
「アンタには言ってねぇ。ガキ共、お前らに言ってんだ。」
「夢をそんなに安くしていいのか?いやもっと分かりやすく言えば『外』に行ってみたいか?」
「行ってみたいけど…」
無理だって言いたいんだろう、子供達は言葉には出さなかったが目で訴えてきた。
「その気持ちがあればいいさ、俺が近いうちに連れてってやるよ」
立ち上がり隣の廃墟へ近づき、壁の前に立った。
「国を変える、この手で。そうだお前達、この建物をよーく見てろ。」
ズドドドドド! ガラァアアアアン!
廃墟を思いっきりラッシュで殴り壊した。
痛い、痛いけどコイツらが無理矢理我慢した夢の重みからしたらまだ軽いもんだ。
「確かに俺の手からビームは出ないかもしれない。でも、こんだけ凄い力があるんだから少しは俺を信用してくれ。」
子供達は目を真ん丸くして驚いたが、その後凄い凄いと近寄って褒めてくれた。そして、『外』に出てみたい、出たいと本音を伝えてくれた。
「フッ」
イリスが思わず笑う。
「おかしなこと言ったか?」
「いえ。」
(プリュマーさんなら本当に…)
出しかけた言葉を飲み込み首を横に振った。
しばらくして子供達と別れを告げ、また2人に戻った。
「また使いましたね。今度は痛みとかあります?」
「痛いけど我慢できそうだ。」
「じゃあ『ショットガンモード』を…」
「ぜっっっったいにやだね。あれは威力を半減しないと扱えない。」
「さっきのより威力が大きいのがあるのか!?」
建物の奥から人が出てくる。何処かで見たような黒髪の青年だ。
「…誰?」
「あれ?さっきの人じゃん。名前は…言ってたっけ?」
「マシロ…マシロ・ハンダだ。」
珍しい名前だ。発音からしてこの付近の国の奴ではないな。
「マシロさんね。で、なんの用だ?こっちの事を見てたりコソコソ聞き耳立ててたんだ、何も無いなんてないよな?」
「…アンタらはさっきのパンチより強い攻撃ができるのか?」
「まぁ、出来なくはないな、やりたくないけど。」
「その力を使って『外』に戦争を仕掛けに行くんだな?」
「戦争ではない、話し合いさ。」
「話し合いの通じる相手だと思っているのか?」
「上の人間には無理だろうな、だけど国民は違う。」
マシロに今回の作戦について話した。さすがにこれから死ぬこととかは話さなかったが、国王のスピーチとそれの重要性、それと今のルヴトーの勢力を説明した。
「なるほど…じゃあその力はあくまでスピーチを守るため、相手の攻撃を止めるために使うということだな。」
「そうそう、そういうことだ。」
「凄い…あいつらとは大違いだ…!」
「あいつらって誰だ?」
「知らないのか?最近よく見かけるあの…バンダナ巻いている奴ら。」
「あー!そういや今日は見かけてないけどいるな、そんな集団。」
ゴミ捨て場を勝手に管理してるバンダナを巻いた集団で目的などは分からず、ダストシティの人間に危害を加えることがあるから誰も触れないようにしていた。
「あのバンダナ集団が今日居ないのは新しい武器が手に入ったからだ。」
「武器!?一体なんのために、誰が?」
そもそもどうやって手に入れるたんだ?密輸か?それとも密造?
密輸なら誰が?王家側が武器の密輸なんてする訳ないだろうしな…ルヴトー側は手を貸すなんて絶対にありえない。
密造ならどうやって?鉄クズならそこにいる奴が毎日拾ってるし、第一作り方知らないだろ。
「誰かは分からない。ただ理由は知っている。」
「あいつらの目的は『外』の制圧。『外』から取引で手に入った武器を使い、裏切って国ごと滅ぼすつもりだ。」
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