第17話 4つのモード
〜ゴミ捨て場前〜
ヴァレンとの一時的な別れをした後、イリスと2人でモードチェンジの機械を運び試運転を始めた。
「いいですか、まずはその機械を腕に付けてください。あーそっちじゃないです、そのなんか鉄球みたいな…そうそれ!」
「これを腕に…うぉうおうお!ちょっ!引っ付いたんだけど!取れない…取れない!」
手に取った鉄球が展開し腕に巻きついた。
持っていた時は重かったのに腕に装着したら随分軽くなった、なんだこの技術。
「大丈夫っすか?」
「軽くなって…あとは特に何も変わってないな。かっこいいフォルムしてるがなんか機能とかあるのか?」
機械の腕をグーパーしてみるが本当に普段と変わりがない、逆に変な気持ち悪ささえ感じてしまう。
「えぇとですね…まずどんなフォームがあるのかを見てみましょう。」
〜基本フォーム「ハンドガンモード」〜
イリスはヴァレンから渡された説明書を読み上げる。
「今は生身っていうか機械になる前ですが、機械の素のフォームのことを『ハンドガンモード』って言います。」
「このフォームが?」
「いえ、その腕の機械は別のモードで『ハンドガンモード』は本当に素の肉体らしいです。」
「うーん…ハンドガンって程かぁ?パンチも平均レベルだと思うんだが…」
見よう見まねのシャドーボクシングを披露する。
これはジャブなのかフックなのかは分からないがプロボクサーよりは遅く威力もないと思う。
もし、プロボクサーがガチガチのアーマー着てトゲ付きグローブはめたとしたら機械の体でも勝てるのだろうか?
そんなくだらない事を考えながら
「機械化することにより肉体時の何倍ものパワーを手に入れられるらしいです。基本的にはこのモードで戦えるよう設計するので安心してくれ…って書かれてます。」
「そんなに強いなら、この腕についてる別のフォームってのはあれか?覚醒の力を封印する…とかそういう系の…」
片手首を抑え中二病のようなポーズを取るが、イリスには全然伝わらず戸惑っている。
「いや、全然違います。まあ、このモードは特に説明することないんでその腕のフォームについて話していきますね。」
〜「サブマシンガンモード」〜
「腕についているのが『サブマシンガンモード』!まぁまずはこの壁を殴ってみてください!」
「分かった、あーらよっ!」
バゴォォォォォオン!
コンクリートの壁に穴が空いた。
パンチ一発でこんな威力があるなんて、さっきのボクシングの心配はすでにどこ吹く風だな。
「すっげぇ…このモード最強だな。確かにサブマシンガンの名に恥じないわ。」
イリスは口を開き唖然としてたが我に返り説明を続けた。
「…あっ。確かにパンチ力は凄いんですけど、このモードにはもっと凄いところがあるんです。」
「へぇ、どういうのなんだ?」
「えっと…単語の意味が分からないのでそのまま読みますね。」
「『サブマシンガンモード』ではラッシュが基本動作になります。殴れば殴るほど強くなる訳ではなく、ハイスピードでずっと殴り続ける持続的な強さです。」
あー確かにそっちの方がサブマシンガンらしさがあるな。
「ラッシュか…この威力でラッシュを…行くぞーおりゃあ!」
ドドドドドド ガゴォン
穴を空けた壁のある建物が一瞬で更地になった。
「へ?」
「え?いやいや凄すぎません?一瞬で粉微塵になりましたよ!?」
手をグーパーしながら感触を確かめる。
うん、なんていうんだろう…殴った感触はあった。今、腕の感触はない。
「威力は凄いが、一つだけ分かったことがある。これは人間の体で扱うのは無理だ、腕ぶっ飛ぶかと思ったわ」
「威力問題なし、操作性問題ありっと…、機能性とかは特に…なんかありました?」
「操作性抜くなら機能としては充分なんじゃないか?操作性も、機械の体なら耐えられそうな気もするし。」
「了解です、それじゃあ次のモードに移るのでその器具を外してください。」
「…」
「あれ?あー、腕が痛かったんですねすいません、すいません。」
嫌な予感がする。腕が痛いのもそうだがもっと根本的な何かを思い出し、冷や汗が出た。
「いや、違う。」
「え?」
「勝手についたから外し方が分からねぇ…ど、どう取るの?」
この後、サブマシンガンモードを外すのに1時間程かかった。
〜「ショットガンモード」〜
「次に『ショットガンモード』になります。そこの筒状の機械を手に取ってください。
「はい!また勝手に引っ付いて取るのに時間かかりませんか?」
「今回は外し方もちゃんと確認しました、大丈夫です!それでは、機械をしっかりと垂直に立ててください。」
大丈夫と言われてもさっきの鉄球のことがあるからすごく慎重に、小刻みに震えながら筒状の機械を立てた。
「…よし立った。」
「それでその前に今度はプリュマーさんが立つ…と?」
シュインシュイン キュイイイン
今度は足に引っ付きやがった…でもなんか悪い気はしないな、カッコイイし。
「ブーツみたいで気にいったわ。これでショットガンなんだろ?カッコよくて強い、最高じゃねぇか。」
「本当ですか?じゃあ操作について説明します、『ショットガンモード』は見た目通り蹴り技専用のモードです。ショットガンという名だけあって威力は抜群!試しに壁に片足付けて蹴るってイメージを思い浮かべてください。」
「壁に…片足ねぇ…それで蹴っー
ドゴォォォォォオン!
え?
壁に穴が空いたとかいう次元じゃない、壁ごと飛んだぞ!?
そんな嬉しさや驚きが数コンマ、本当に0.00000何秒頭の中をよぎったが、それはいきなり訪れた。
「ああああああああぁぁぁあ!!ま、股があああああ!」
簡単に説明すると、壁に付けていた右足がありえない勢いで一回転した。
人は限界の痛みを感じたらこんな叫び方をするのかと自分ながら思う。
「あっははははは!足が!足がぁ!あははははははは!」
人の痛みなんて露知らず、転がりながら笑っている。
イリスから見たらとてもシュールな映像に見えたかもしれない、だけど足ぶん回された人間はシリアスそのままだった。
「えぇと…wこのように威力があwりwまwすw」
「あのなぁ、右足が一回転したんだぞ…いたわれやぁぁ…!」
股がまだジンジンする。心なしか摩ると痛みが引いてくるような気がする。でもまだ動き始めるにはまだ時間がかかりそうだ。
「叫ぶくらい元気ならいけますって。『ショットガンモード』にはもう1つ試してもらいたいことがあるんで立ってください。」
酷いし、鬼だなコイツ。
「も、もう何もないよな!ぜっっっったいにないよな!?あ、あと足震えて立てない…よ?」
「フヒヒィッw何ですかそれwまぁ次のは攻撃ではなく、便利な機能って感じですかね。そうそう、移動系。では普通に両足で立ってください。」
イリスの介護を受け、生まれたての子鹿のように立ち上がる。
立ち上がったが、気を抜けば崩れ落ちそうなため大の字でバランスを取っている。
キッちぃな、この体制。
「はい。これで…何?」
「さっきと変わらず地面に向かってブッパなしてください。それで…空飛べるはずです。」
「それいいね。オケ、行くぞ!3、2、1、ゴ
バスッブシュウゥゥゥゥ ズドォォォォオン!パラパラパラ
飛んだ、飛んだのには間違いない。
そうなんだよ、飛べたのには間違いないのに空が見えなくて真っ暗なんだ。
それと、何でだろうね?頭がめちゃくちゃ痛い。
「…」
「フハァー!ファー︎ ⤴︎wwww!飛びましたねぇwww」
イリスの笑い声で確信に変わった。
前に飛んだんだな。で、頭ごと壁に突っ込んで突き刺さったんだ。
まずは色々言いたいことあるから抜かせよう。
「ひっふぉぬふぇ」
「え?」
「引っこ抜け!」
「ああ、はいはい。せーのっはい!」
俺の胴体を掴み力任せに引っこ抜かれ、壁の欠片やら砂利が目の中に入る。
「はぁはぁはぁ…扱えないの次元を超越してるわ!火力うんぬんの問題じゃねぇだろ!不良品だよ、不良品!」
「じゃあ全部問題ありってことですね。でもモード的にはこんなのだよってのは覚えといてください。」
「分かった、あといい所は一つあったわ。」
「?」
「デザインがいいな、俺好み。」
「それだけ?」
「そんだけ。」
〜「ランチャーモード」〜
「最後は『ランチャーモード』です!ではまずそこにある機械を取っー
「すとっぷ、stop、ストーップ。いいか?もうやらない、やりたくない。」
「ランチャーモード」の機械を差すイリスの指を下ろさせ、子供に説明するようにゆっくり話した。
「え?なんでですか?」
「よーく考えてみよう。『サブマシンガンモード』で腕痛めて、『ショットガンモード』で股を壊しました。」
「はい。」
「じゃあ問題です。ショットガンよりも威力が馬鹿デカイ『ランチャー』、その名を冠したモードで考えられる被害はどうなるでしょう!?」
「えぇ…『ショットガンモード』であんな面白い事起きるんでしょう?腰がへし折れるとか?」
「面白くはなかったが、まぁその推理はいい線いってると思う。俺の予想だと四肢が爆散すると思うな。」
二つの意味で冗談ではない。脳だけ残れば良いってもんじゃないんだよ、下手したら脳すら飛ぶかもしれないな。
「四肢が!?まぁ有り得そうな気もなくはないっすけど…」
「な?だからやりたくねぇよ。せめて死ぬまでは健康でいたいし、こんなアホな事で体壊したくない。」
「じゃあこれは見なかったことに。」
イリスは説明書を折りたたみ背伸びをする。笑いすぎて転がってたし、昨日と今日でだいぶ疲れたからだろうから休ませてやろう。
「ああ、そうしてくれ。そして、今日はおやすみ。」
イリスと別れを告げ寝床へ着く。
まだこの時は、これから起こることなど予想出来なかった。
もう一度この肉体でこのモード達を使うことも。
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