フードルネイン

ペレイグレインを跡にしたエリスとガルバンは、遥か東に位置する轟雷の街フードルネインを目指すために冒険に出た。



行く先行く先で事件を解決していくエリス。



馬車の荷物を盗む盗賊と戦ったり、花屋の娘の結婚式を手伝ったり、空から落ちてきた巨大な卵を羽化させたり・・・・・・。



人のため、助けや戦いをしてきたエリスは、人としてのスキルを上げていき、エリスはここ2ヶ月でグランドドラゴンを討伐するほどに急成長した。



これは、雨の街レイニールで起きたこと。一年中雨が降り続けるレイニールでは、民のほとんどが水を操る力を持っており、レイニールの武力は他の国と比べても遥かに強かなものだ。



大水の大砲、小水の鉄砲、水の盾、水の剣。最強としたたわれる炎の国フレグニルの最強の剣士バーンを数十分で倒した水の国随一の剣士アマノツキの名は瞬く間に世界中に広まり、ココ最近まで無名だったレイニールは、各国から賞賛を浴びるまでになった。



そんなレイニールに休憩場として着いたエリスとガルバン。二人は街の人に面白いものが見れると言われ連れてこられたのはいわゆる裏闘技場。表では見ることの出来ない残虐さや卑劣なものがそこでは繰り広げられていた。



そこでエリスとガルバンは衝撃的なものを目の当たりにする。それは、レイニール随一の剣士アマノツキが負けたからである。相手は轟雷の街フードルネインの剣士ジュワン。相性が悪く、アマノツキの最終奥義でさえ、ジュワンの体には触れなかった。



「アマノツキ、いい試合だった」



「まさか、雨の街を背負う私が負けるとはな・・・・・・。ジュワン、貴方は強い。相性など関係ないと思っていたが、あなたは実力もかなりのものだ。・・・・・・ジュワン、貴方の名前は初めて聞きました。貴方はどういった人で?」



アマノツキの質問におかしな部分でもあったのか、ジュワンは急に笑い出すと件を抜き、アマノツキの左腕を切断し、アマノツキはガクッと膝から地面に崩れ落ちてしまう。



「轟雷の街フードルネインは、レイニールに宣戦布告しに来た。そして、いずれかは・・・・・・世界を・・・・・・」



何か様子がおかしい、そう思いエリスは観客席を飛び越え舞台にいるアマノツキを背負うと、裏闘技場から逃げ出した。



ジュワンはアマノツキをかかえるエリスを追いかけようとしたが、ガルバンが足止めをしてエリスはレイニールの剣士場まで逃げ切ることができた。



「ありがとう、私をここまで運んできてくれて。名は?」



「俺はエリス。旅人だ」



「・・・・・・エリス? まさかな、あなた、ペレグレイン出身か」



「なんで俺の出身地を?」



「あなたは勇者だろう。この石がそう言ったんだ」



そう言いアマノツキが腕につけているアクセサリーをエリスに見せた。



「これはエメラルドストーンと言って、轟雷の街フードルネインでしか作れない貴重な石なんだ。なんでもこの石からは導きの声が聞こえるらしく、まさにそのの声がこう言ったんだ。『遥か西にある城を目指しなさい。ペレグレイン、そこに勇者を名乗るエリスという少年がいます。あなたが望むものは、そこにあります』と」



「そんなに細かく教えてくれんだな。俺のエメラルドストーンは、『東の崖の上にある』とかしか言わなかったな。どうしてだ」



「エメラルドストーンはフードルネインに近ければ近いほどその能力が最大限に発揮します。実はエメラルドストーンはとても貴重で、ここに二つもあるなんて普通はありえないことなんですよ。エメラルドストーンは世界に五つしかないと聞いています」



「そんなに貴重なのか」



「はい。と同時に、偽物も世に出回っています。本物だけ、声が宿っているのです。あなたの石からも、導きの声がしたでしょう。それが、本物である証です」



その時だった。二つのエメラルドストーンは共鳴するかのように光だし、その光は辺り一帯を覆いつくし、二人を光の中へ誘った。



二人が目を開けると、そこには一体の竜がいた。



「なんだ、ここは?!」



エメラルドグリーンの光に満ちた竜は、こう言った。



「私の名は雷龍フードルネイン。あなたがたが持っているエメラルドストーンの声元は、私なのです」



「エメラルドストーンの声元ってことは、なんなんだ?! フードルネインとは街の名前だろ・・・・・・?」



急な展開にアマノツキは頭が冴えないようだ。



「驚くのは無理もない。・・・・・・こうして話せるのもあともう少しでしょう。今は時間がありません。私からの最後の導きをしてあげましょう」



「最後の導き……? それってどういう?」



「轟雷の街フードルネインは私の分身のようなもの。安全で住みやすい街はある日突然、姿を変えました。魔物が襲ってきたのです。剣士を名乗るジュワンも、魔物の一人です。奴らは魔王直々の強かな者ばかりです。私も姿を現し戦いに挑みましたが、あのジュワンという者だけは勝つことが出来ませんでした。魔王軍はここ最近で強力な力をつけています。この世界のためにも、勇者エリス、そして剣士アマノツキ。二人が力を合わせてどうか、あのジュワンという者を倒してください・・・・・・。もう時間です。ご武運を祈ります・・・・・・」



光は消え、フードルネインの姿も消えエリスとアマノツキは元の世界に戻った。



「あの声は、助けを呼ぶ声だったのか・・・・・・」



エリスは剣を抜き、アマノツキにこう言った。



「もしかしたら、俺たちがここで出会えたのは偶然と必然が合わさったからだと俺は思っている。アマノツキ、覚悟は出来ているか」



「出来てます、勇者エリス」



二人は剣を交え共に魔王軍と立ち向かうことを誓った。



「エリス君、そしてアマノツキと言ったな、大丈夫なのか」



ガルバンが建物を飛び越えてやってきた。所々傷を負っておるようだ。剣をまだ握っていた。



「近くにいますね」



アマノツキが言う。



「わかるのか?」



「分かりますよ。雨がそう答えてくれる」



アマノツキが言った通り、すぐに目の前にジュワンが現れた。背中からは魔物の翼が生えている。



「行くぞ!」



「はい!」







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勇者物語〜エリスと失われし思いを乗せて〜 ちとせ そら @TitoseSora

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