第106話 雪の日の雪合戦と雪だるま作り

 三が日が明けて数日経ったある朝。目を覚ますと、寝室の窓から明るい光が差し込んでいた。


「……雪?」


 カーテンを開けると、一面の銀世界が広がっていた。昨夜から降り続いた雪は、庭の木々や家の屋根を白く覆い、まるで絵本の中の世界のようだった。


「修ちゃん、雪だよ!すごい積もってる!」


 隣で寝ていた百合が、目を輝かせて起き上がった。子どものように、はしゃいでいる百合が可愛らしい。


「ほんとだ……今日は一日中雪かな。寒いし、家でゲームでもするか」


 温かい布団から出るのが億劫で、コタツでぬくぬくしながらゲームでもしようかと考えていたのだけど。


「えー!せっかく雪が積もってるのに?雪だるま作ろうよ!」


 百合は俺の腕を引っ張りながら、興奮気味に言う。


「外は寒いだろ……」


 雪遊びは嫌いじゃない。でも、ここまで寒いと外出も億劫になる。


「せっかく雪が積もったのに、家にいるなんてもったいないよ!雪合戦とか、雪だるま作りとか、久しぶりにやろうよー。修ちゃんも、昔は雪が降ったら喜んで外に飛び出してたのに」


 百合はキラキラとした目で俺を見つめてくる。そんなに雪遊びがしたいのか。


「……わかったよ。最近、ちょっと運動不足気味だったしな」


 百合の熱意に負けて、俺は一緒に外に出ることにした。

 暖かいコートとマフラー、手袋でしっかり防寒をしてから庭に出る。


 しんしんと冷えた空気が頬を刺す。

 吐く息は白く、すぐ消えていく。

 空は晴れていて、雪景色が眩しい。


 庭に出た俺たちは、早速雪合戦を開始。


「修ちゃん、いくよー!」


 百合は手始めとばかりにぽんと雪玉を投げつけてくる。

 雪玉を手でガードしつつ、反撃する。


「ほらっ!お返しだっ」


 雪玉は百合の肩をかすめて飛んでいく。


「甘いね、修ちゃん」


 百合は不敵な表情だ。


「じゃあ、もうちょっと本気出すか」


 俺は狙いを定めて、雪玉を投げる。雪玉は百合の胸元に命中。


「きゃっ!冷たっ!」


 ふと叫んだかと思えば、彼女の目に炎が灯った。


「……ここからはほんとに手加減なしだからね?」


 やばい。ちょっとやり過ぎた?


 最初は優勢だった俺だが、正確無比なコントロールで腕、ふともも、首元と次々とぶつけられるに至ってどんどん身体が雪まみれになっていく。


「タンマ!ギブアップ!」


 これ以上雪玉をぶつけられてはかなわないとあっさり負けを認める。


「圧勝だね」


 少し息を切らしながらの勝利宣言。俺とは反対にほとんど雪がついておらず、まさに勝者の笑みだった。そんな無邪気な百合を見て、俺もつられて笑ってしまう。


 雪合戦で身体を動かしたあとは、水筒にいれた温かいココアで一息ついた後、雪だるま作りに挑戦。百合は大きな雪玉を転がし、俺は小さな雪玉を作る。


「修ちゃん、そっちの雪玉、ちょっと大き過ぎるよ!」

「百合の方は小さすぎるだろ。俺のを置いたら崩れるぞ」


 ああでもない、こうでもないと、言い合いながら協力して雪だるまを完成させる。


 目には小石、鼻には人参、口には木の枝。最後に、百合がいつの間にか持ってきていた赤いマフラーを雪だるまに巻いて、完成。


「じゃーん!完成!可愛い雪だるまが出来たね!」


 百合は満足そうに、雪だるまを見つめている。子どものように、目を輝かせている百合が、本当に可愛らしい。


 ふと、子どもの頃のことを思い出す。


「昔、百合によく雪玉をぶつけられたよな」


 苦笑しながらそう言うと、


「昔からコントロールは抜群だったからね」


 百合が笑う。毎年一回はある積雪の日には決まって二人で雪遊びをした。雪合戦をしたり、雪だるまを作ったり。積雪が多い日はかまくらを作ったり。


 寒い冬も、百合と一緒なら楽しかった。


「そういえば、小学校の頃、百合が雪だるまに落書きしたのを思い出した」

「落書きって……修ちゃんの似顔絵のこと?」

「百合が俺の顔を描いたんだけど、全然似てなくてさ。笑っちゃったよ」

「ふふっ。そんなこともあったね」


 他愛のない思い出話に、花が咲く。

 気がつくと、家の中から与助が出てきていた。


「あ。与助!一緒に遊ぼう!」


 百合は嬉しそうに与助に駆け寄るが、与助は雪の上を歩くのを嫌がり、すぐに家の中に戻っていってしまった。


「与助は雪が嫌いみたいだね」

「ま、あいつももう歳だし」


 家でぬくぬくとしてるのが一番なんだろう。


 雪遊びで冷えた身体を温めるため、家の中に戻る。

 温かいお風呂で温まり、夕食を食べた後、今日の出来事を振り返る。


「今日は本当に楽しかったね!」


 寝室で百合は笑顔でぎゅっと抱きついてきた。


「ああ、楽しかった。たまには雪遊びもいいな。子どもの頃に戻ったみたいだった」


 俺は百合の頭を優しく撫でる。

 百合と出会ってから、本当にたくさんの思い出ができた。


「修ちゃん、大好き」


 ふと、百合が、ささやくような声でそう言った。


「俺も大好きだぞ、百合」


 チュっと百合のおでこにキスをした。


(雪遊びも、たまにはいいもんだな)


 こうして雪の日の一日は穏やかに過ぎて行ったのだった。 

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幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた 久野真一 @kuno1234

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