見えはしても変えることのできない明日

 未来を見る能力を持って生まれた人が、自身の半生を振り返って綴る物語。

 少し不思議な力の登場する、現代ものの掌編です。
 いわゆる未来予知のお話なのですが、一度見た未来は事実上変えられない、というのが特徴的。たとえば何か不幸な事故を予知したとして、しかし絶対に避けられないのであれば、かえってつらいばかりというのが印象的でした。

 自然な筆致の魅力というか、語り口に感じる納得感のようなものが好きです。
 未来予知の能力など持っていない自分にも、「なるほどこんな感じかも」と思わせてくれる説得力。生まれつきのものであるがゆえに、みんなこれが当たり前だと思っていたところなど、主人公のその感覚を想像すること自体が楽しいです。

 決して良いものではない能力を抱えながらの半生。幼い頃の記憶からはじまり、長じて大人になった現在までを描く、そのスケール感のようなものも魅力的。
 不思議な能力は登場するものの、しかし人ひとりの人生を静かに綴った、悲しく雰囲気のある物語でした。