第69話 幼馴染み
九条さんとトレーを持って空席を探していたら、タイミング良く壁側に座っている客が席を立とうとしているのに気付く。
その席は目立たない場所にあり、狙っていた場所だったので急いで向かった。
「良い場所に座れたね」
「そうだな。端に座りたかったから空いて良かったよ」
呼び合う名前を変えて対策はしているけど、俺達を探している後輩には会いたくない。
やり過ぎと思うかもしれないが、九条さんは目立つから対策は必要だろう。
トレーを持って歩いてる時も、周囲の視線を釘付けにしていたからだ。
そんな理由もあって、俺は全体を見渡せる壁側に座り、九条さんは俺の正面に座って周囲に背を向けている。
「リョウマくん、食べないの? 早く食べないと冷めちゃうよ」
「あ、ああ、食べるよ。……それで、これってどうすれば良いんだっけ?」
「やり方を知らないの? こうするんだよ。見ててね」
九条さんはポテトを袋に入れて楽しそうにシャカシャカと振り始めた。
俺もその真似をして、同じようにシャカシャカする。
「こうやるのか。CMでしか知らなかったけど、やってみると楽しいな」
「そうだよね。でも、初めてみたいだけど、リョウマくんはハンバーガーとか食べないの?」
「好んでは食べないな……ただ、俺からすると、くじょ……いや、アリスがハンバーガーを食べるのに驚いたよ。常に手料理のイメージがあったからさ」
「私も普段は食べないけど、千佳ちゃん達に連れられて行く時があるの」
「なるほど。だからやり方を知ってたのか。じゃあ、俺と似たようなもんだな。俺も咲良と行くくらいだし」
咲良の名前が出た途端、九条さんのシャカシャカする手が止まった。
「山本さんとは行くんだ。幼馴染みって聞いてるけど、仲良すぎだと思う……」
「それ、絶対に勘違いだから。仲が良いのは香織と涼介も同じだし、咲良には彼氏が居るって言っただろ? ほらっ、これがさっき見せるって言った和真だよ」
咲良の話題は禁句みたいだ。
玉子焼きの件もあったせいか、九条さんは咲良を苦手にしている。
二人は文学繋がりで話が合うと思うのにな。
「ふーん、この人が……」
「そ、そうだ。コイツが前も話していた咲良の彼氏だ。
「違う学校だけど、同じ駅にある学校だよね? なのに、なんで山本さんは彼氏じゃなくて、リョウマくんと行くんだろ……」
和真の写真を見せても、九条さんの目に光は戻っていない。
むしろ、彼氏が居るのに他の男と遊んでると思ったのか、更に不機嫌になっている。
「これも前に言わなかったっけ? 咲良に『俺と行け』と言ってるのは和真なんだ。咲良は小説のネタ探しで色々な店に行ってて、その付き添いみたいな感じだよ。これで納得できた?」
「うん。でも、ちょっと山本さんが羨ましいって思ったかな」
「……咲良が?」
俺の話を聞いた九条さんは、五人で撮った写真を眺めたまま口を開く。
「山本さんだけじゃないかな……横山さんも羨ましいって思う。子どもの頃から友達で、恋人にもって。なのに五人の関係は変わってないもん。私には幼馴染みが居ないから羨ましいの」
九条さんの言葉に俺は何も言えなかった。
未来を変えることは出来ても、過去は絶対に変えられない。
少し重い空気になり、しばらく無言の時間が続いていると、スマホを見ていた九条さんの視線が俺に向く。
「私達が幼馴染みだったら、今の関係とは違ったのかな?」
「今の関係と違うって、どういうこと?」
「……そ、その、神城くんと横山さん、それと山本さん達みないな関係に……」
恋人になっていたのか、と言いたいのか。
俺達が幼馴染みなら、男が苦手というトラウマを抱かず、誰かを好きになっただろう。
それが知らない男だったとしても、俺は今と変わらず九条さんを好きになるはずだ。
「そうかもしれないな」
さっきも思ったけど、過去は変えられない。
だから願望くらいは言いたいと思って言葉にすると、九条さんは目の前の俺と五人の写真を交互に見ていた。
「……私も幼馴染みになる」
「えっ?」
「だから、今日から幼馴染みになる」
「……誰と誰が?」
「私と藤堂くん」
「──んっ?」
俺を呼ぶ名前が藤堂に戻ってるけど、それどころじゃない。
今日から幼馴染みになるって、なれるもんなのか? 九条さんの考えが分からず混乱する頭を整理する。
「幼馴染みって、どうやってなるの? なろうと思ってなれるもんじゃ無いと思うけど……」
「思い込めば大丈夫だと思うよ」
「……そうなのか?」
「うん。だから今日から幼馴染みになるの」
「……わ、分かった」
九条さんの自信満々な言葉に押し切られてしまった。
それよりも、俺の存在って何なんだろう?
恋人として見るのは無理だけど、その練習相手であり、幼馴染みでもある。
関係が進んだのかは分からないが、複雑になったのは確かだ。
「あっ、そういえばまだ食べてなかったね。早く食べないとポテトがシナシナになっちゃうよ」
「そうだったな。お腹空いたし食べようか」
まあ、考えても仕方ないな。九条さんが望むなら納得するしかないか……
そう思ってバター味のポテトを口に入れた。
「へぇ、意外と美味いな」
「だよね。
「そうか。じゃあ、次は
初めて食べたフレーバー付きのポテトは美味しかったし、梅味も期待できそうだな。
俺は楽しみにしながらポテトを食べた。
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またまた短くてゴメンナサイ(。ŏ﹏ŏ)
知らない相手と始めた交換日記。その子はクラスの金髪美少女ギャルだった。 青山有季 @kamekame0220
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