第47話 ハッピーエンドでいこうじゃないか

 鍛えてきた。転移も念動力もあの頃とは比べ物にならないくらい精度も威力もあがっている。

 光の剣であれば、隕石を切り裂くことだって容易いだろう。

 

「頼む。すみよん」

「まさかの他力本願にすみよん、開いた口が塞がりませーん」


 すみよんと繋いだ手にぎゅっと力を込める。

 そうなんだ。隕石を斬ることは容易い。今井と梓を身を呈して降り注ぐ火の粉を光の剣とサイ・ウェポンで護りきるのなら可能だ。

 だけど、二人以外はどうなる?

 隕石の質量を超能力で消し飛ばすことは不可能だろ。

 そこで、すみよんだ。ははははは。

 

 すみよんの手に小さな炎の球が現れ、未だ上空にある隕石と接触する。

 絶妙に調整した威力だったのだろう、隕石とティルトフレアが対消滅し、僅かな熱を感じるだけで衝撃波の一つも生まれなかった。

 

「今井、梓、無事か?」

「何ともねえ。何だったんだ、今の影は?」

「無事ならいいんだ」


 狐につままれたような顔をした今井に笑いかける。

 

「池添くん。その子は?」

「え、ええと」

「すみよんでーす」


 梓が当然のことを聞いてきたが、何とかして親戚の子供だと誤魔化す。

 彼女らからしたら、突然気が付いたらすみよんがいたわけだから、意味が分からないだろうな。小さいから後ろにいるのが見えなかっただけじゃないかなんて苦しい言い訳をした。

 

「打ち上げはこの後だっけ。一旦家に帰るよ。また後でな」

「おうー」

「うんー」


 今井と梓と別れ、ほっと小さく息を吐く。

 二人の姿が見えなくなってから、自宅へは向かわず近くの公園のベンチにすみよんと二人並んで座る。

 

「助かった。聞いてみるもんだな」

「いけぞえさん単独もすみよんを含めても使う力は変わりませーん。一度目の時もいけぞえさんを送った時にすみよんもこの世界に来ていたのですよ」

「そうなのか!」

「そうですー。即座に戻りましたけどー。転移は単独じゃできないことをいけぞえさーんも知っているはずですよねー」

「そうだっけ……」


 「魔法の」転移はよく分からん。サキュバスが使っていたっけ。

 座ったところだってのに、すみよんはブラブラさせた足を地面につけて立ち上がる。

 

「これで本当に終わりですねー」

「万事解決ハッピーエンドだ。街に被害もなくてよかったよ」

「雑ないけぞえさーんと違って、すみよんはその辺問題ないでーす」

「だな!」

「しかし、いいのですかー。おっぱいが小さいからですか?」

「んなわけあるか! 誰が聞いているか分からないってのにおっぱいおっぱい言わないで……」

「梓でしたか?」

「梓の胸のことはいいから……すみよんの基準はそこしかないのかよ」

「そうでした。いけぞえさーんはおっぱいよりキツネザルの方がいいケモラーでした」

「それを言うならケモナーな」


 つい突っ込んでしまったじゃないかよ。

 それにしても公園のベンチに耳の尖った少女は違和感が半端ないな。幸い人通りもなく、不審者として通報される心配もなさそうだ。

 通報されるとしたらもちろん俺なわけであるが……現代社会って世知辛いよな。うん。

 

 ◇◇◇

 

 力の暴走、隕石を解決してからはや二週間が過ぎようとしている。

 冒険から帰った俺は久しぶりの自室で寛いでいた。

 

「ゾエさーん。野菜を持ってきたよー」

「助かる」


 ノックもせずにパルヴィが部屋に入って来る。

 彼女が抱えた野菜が満載されたバスケットに向け、アヒルが「ぐあぐあ」と必死で嘴を上に向けた。


「待ってねえ。すぐにあげるからねー」


 パルヴィは慣れたもので、アヒルのサードを足で押しのけスペースを作りバスケットを床に置く。

 彼女がバスケットからキュウリを床に転がすと、サードが即座にアタックする。


「くあああ。ばりばりばり」

「サードちゃん、焦らなくてもいっぱいあるよー」


 サードの前でしゃがみ込んだパルヴィはニコニコと彼の喰いっぷりを眺めていた。

 あの後俺はすみよんにこの世界へ連れて帰ってもらったんだ。

 両親や友人には何も告げずに来てしまったことは、チクりと胸が痛む。

 日本で自分の能力を隠しながら静かに暮らすことは悪くない。だけど、この世界で生きる方が俺が俺らしく生きていけると思ったんだ。

 異世界は日本に比べ、安定した危険のない暮らしをできるわけじゃない。

 なるべく殺生はしたくないが、そんなことも言っていられない。

 でも、生きているって感じがするんだよ。異世界では半年にも満たないほどしか暮らしていないにも関わらず、これまで俺が日本で暮らしてきた以上の密度の濃い毎日が鮮明に記憶に残っている。

 馬鹿な選択だと笑われるかもしれないよな。


『右へ動いて』

『ちょ』


 唐突な脳内の声に動きが遅れる。

 ドサアアア。

 頭上からすみよんが振ってきて俺に馬乗りになった。

 いや、俺は悪くないだろ。

 無表情で死んだ魚のような目で見つめてこないでくれるか? あと、何か喋って……無言は怖いから。

 

「池添くん。動いてって言ったよね」

「動いてから転移してきてくれないか……」

「すみよんは池添くんがベッドで惰眠を貪っている間も、あなたのために動いたの」

「そうだったのか」


 ここで、「そんなこと頼んだ覚えもない」と失言するほどなまっちゃいないぜ。ははは。

 俺のお腹の上に乗ったままのすみよんが、小さな手を開き左右に振る。

 ドスン。

 空から何かが落ちてきた。

 すみよんと俺の丁度間に収まったそいつは、つぶらなオレンジの瞳でこちらを見つめて来る。

 長い縞々の尻尾を自分の首に巻きつけ、ふてぶてしく座ったその姿……ワオキツネザルで間違いない。

 

「すみよんのペットだよな。このワオキツネザル」

「うん。池添くんのために捕まえてきたんだよ」

「てっきり飼っていると思っていたけど」

「あの個体は野に帰したの。池添くんと会話するために捕まえただけだったからね」


 そうだったのか。わざわざワオキツネザルを探してきてくれたのか。


「きゅっ」


 その鳴き声は卑怯だぞ!

 思わずワオキツネザルの頭に手が伸びる。

 もふん。

 うわあ。ふわっふわだあ。

 

 口元が緩む。


「くあああ!」

「サードちゃんー」


 な、なんだよお。ワオキツネザルをわしゃわしゃしていたら、アヒルが飛び込んできた。


「だあああ。散歩でも行くか!」


 すみよんとワオキツネザルを小脇に抱え立ち上がる。

 そろそろお腹もすいてきたし、露店で肉でも買おう。

 

 おしまい


※ここまでお読みいただきありがとうございました! ゆっくりと感想返信させていただきます!


次回作、、はそれほど長くならずに完結予定です! チラ見していただけますと嬉しいです。


タイトル

「俺に任せろ」と宣言し死ぬ予定のモブに転生した俺は、逃走することを決めました~絶対安全な天空の城でのんびりと暮らす……ために最強装備を漁ります~


https://kakuyomu.jp/works/16816700428433164645

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超能力があれば転生特典なしでも強キャラだった件~帰還し命を救うため、モンスターを倒しまくるぞ~ うみ @Umi12345

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