誰にも言えない話


 私は、美琴みことに嘘をついた。


「……封印が解けかけてるせいで、触れた所に何か変なのが付いてる感じがして…」


 ――そう感じたのは、朝偶像に触れた時だった。

今回は、その変なのが私の腕に侵食してきたような感じがして、気持ち悪くて手を放してしまった。ゾクッと変な感覚がして、なぜか口角が上がってしまった。


 美琴みことに悟られないようにしながら、ふと思いついた。


「(…願い事って死ぬ大切な人の対象って、決められるのかな)」


 非情だとはわかってる。だけど、本当に。…ふと、そう思って、軽く思ってしまったのだ。


「…そうだったんだ、お兄ちゃんに聞いとけばよかった」

「(…おばあちゃん貰っていいから、私達の事出してよ)」


 おばあちゃん、と言っても私の母の方は両方なくなっており、父の方は少しめんどくさい事になってるのだ。…記憶上では2回程しか会ってないが、記憶力がないせいでそれもはっきりしてない。

 これじゃやっぱり”大切”判定には入らないか、と思った時。


 突然周囲がふわっと光の拍子になっていく。


「へっ、うわっ!?!」 「っ!」


 突然の事に体を強張らせると、美琴みことが私の手を掴んできて。手の温もりを感じながらも、意識はなくなった。





[非情だな。自分から差し出すなんて殺人と同じだぞ]

「(…誰?)」


[お前が俺に願ったんじゃないか、もう一人の方が願えば万々歳だったのに]

「(美琴みことのこと? …ざまあみろ、私がさせるわけないでしょ)」


 知らない声が聞こえてきて、答えた瞬間目が開いた。

 …どうやら眠ってたらしい。彼女がキョロキョロと周囲を見渡すと、寝てる美琴みこととそのお兄さんがスマホを触りながら美琴みことの隣にいて。


「…も、どった?」 「あぁ…確か、優奈ゆうなちゃん…?」

「…はい、本当に助かったんですね」


「ああ。一緒に助けに来てくれたんでしょ? ありがとう」

「…美琴みことの為なんでお礼はいいです」


 それで会話を終了させる。…大丈夫、俺は対価を支払ってるし、即叶えれる願いだったから、お願い事での繋がりも残ってないはず。

 …あの声…多分あの偶像に封印されてた悪魔だろうな。悪魔に非情って言われるとか思ってなかったわ。


[血のつながった人を自分の意志で殺させるなんて初めてだぞ]

「!? えっ…(な、なんで…!?)」


 周囲を見わたすが、アレはいない。


[お前の中にいるんだから、見つかるわけないだろ]

「(私の中? どういうこと? 願い事は終わったでしょ?)」


[そもそも願い事は魂の契約をするから、終わっても関わったという事実は一生残るんだよ。しかも、お前には才能があった]

「(才能…? 結局私の中から出れないの?)」


 どこか不機嫌そうに話すその声に、今いるのは美琴みことのお兄さんぐらいしかいないが変な人と思われたくなくて座って考える。


[でれねえ。お前に封印の力が移ったのか、出ようとしてもそこまで離れれないんだよ。そのせいで偶像の中に作った黄泉への世界も使えないし]

「(はええ…それ私が死んだら封印解けるってこと?)」


[そうだな。今の状態じゃ殺しても魂をためる事ができねえ]

「(あ、魂って食べるんだ。それがご飯?)」


[人間みたいなご飯とかの概念はねーよ。力を増幅させる為だ。俺等は力がないと消滅するからな]


 …この悪魔以外と面白いな。情報もすぐ教えてくれるし、今の所いるだけで害はそこまでないような感じがする。…あれ?


「(それならおばあちゃんできない?)」

[それはもうできる。願いは絶対だ。だからあいつらはあそこにいるんだからな]


 …なるほど。魂を食べたら力が増えて、なぜか封印は私に譲渡されて…つまり、これは私が魂を食べさせない用意して弱らした状態でどうにか悪魔を殺せれば勝ちか。


 そう思ってると、美琴みことが少し動いた。


「(…そうだ、起こさないと)美琴みこと美琴みこと?」

「ん…んん…?」


 美琴みことは周囲を見渡して、お兄さんに気づいて感動の再会を果たした。兄かぁ、兄妹なんていないけど、なんかいいなあ。





 車で迎えに来てもらって、すぐにおばあちゃんがなくなったと電話が来た。

 本当になくなったんだ、とは思いつつ、おばあちゃんの持ってた土地の権利が私に来そうだったので未成年だから、という謎の理屈を通しお父さんに擦り付け、お母さんがお父さんと離婚して…。


 やっとあの嫌な父親から逃げられた。


[俺を利用したのか] 「(なんのことだかわかんないな)」

[結果的に母親と2人暮らしになるまで、お前の筋書き通りだったんだろ?]


 …まぁ、考えを読んで会話できるんだしばれてるのは知ってたけど、驚くほどすんなりいった。最悪権利が私に来てめんどくさい事になると思っていた。


「(お前って他の人には聞こえないんだよね)」

[ん?ああ、契約をする時は聞こえるが、まぁ願い事を叶えるだけだから話すことは少ないな]


 それ無言でやられたらわからんやつじゃん。…願い事系は考えないほうがいいかもな…絶対無理だけど…。



 夏休みの後半に入っても特に実害もなく、黙れと言えば暫くの間は黙ったし、次第に仲良くなって軽く「~して」程度だったらお願いとはならないらしく、動いてくれることもあった。まぁ言うとしても瓶開けてとかだけど。


[今まで偶像の中から一歩も動けなかったし、それならお前に命令されてでも出れた方がましだ。お前の命令も簡単だしな]


 らしい。何か若干煽られてる気がするが、まぁ気にしないでおくとして…。


「(それって、もしあの人殺して、とかでもいいの?)」

[俺が魂食っていいなら。でもお前の近くで殺すことになるけどそれでいいなら]


「(いいんだ…)」


 何だろう、契約とかより魂の方がいいのかな。まず契約する得もわかんないし…


[契約は俺がこの世界に干渉できて、どうあがいても強制力が働くんだよ]


 成程? よくわからんけど裏切れないみたいな感じなのかな?ってことは今私が命令してんのはどういう判定になるの?


[さあな]


 肝心なとこでぼかしてくるじゃん…。まぁいいや、病んだ時以外滅多に害になる事はないし…あ~でも長生きしないといけないのか…めんどくさいなあ。



「…」


まあいっか、結果的に皆ハッピーエンドになってるし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仲間との兄救出作戦始動! スイートピー @SANdown

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ