最終話


「―――こと、美琴みこと」 「ん…んん…?」


 気が付いたら、優奈ゆうなが肩を揺らしていた。目をこすりながら周囲を見ると、そこは電車の中で。優奈ゆうなと私の傘はちゃんとあり、まだ水滴がついていた。

 バックについてるキーホルダーもバックもそのまま。ふと隣を見て驚いた。


「!? おっ、お兄ちゃん!?」

「ん? あぁ…おはよう、美琴みこと。心配かけてごめんな」


「なんで…っ、ばかあ、」 「! …ごめん」


 乗った時はある程度いた電車の乗客は誰一人としておらず、外は暗い。お兄ちゃんが抱きしめてきて、今までの緊張が解れて涙が出てきた。

 泣きたいわけじゃないのに、言いたいことは沢山あるのに…




 あれから少しして、お互い話したかった事も話し合った。

 お兄ちゃんはお願い事はしてないらしく、くっついてたら一緒に封印されたのは想定はしていたんだとか。


「まぁ、起きたら2人が仲良く寝てるから…2人とも無事でよかったよ」

「えっ、優奈ゆうなより先に起きてたの?」 「ああ」


「ちょっと何日たったのかとか知りたかったし、友達や両親に生存確認してたんだ」


 そうのんびりと言う兄に、思わずため息がつく。…こっちは決死の覚悟で行ったのに…。結局、バッグの偶像はなくなってるし、優奈ゆうなもずっと機嫌悪そうに黙ってるし…と思っていると、優奈ゆうなが話しかけてきた。


「そうも言ってらんないよ」 「え? なんで?」

「え? だって…今の状況、お兄さん無賃乗車と同じだし」


「「…あ」」


 あの後、終電まで待って降り、駅員さんに無くしたと言ってわざわざ捜索してもらい、結局見つからずお金を払ってその場は凌げたが、家に帰るのが問題になった。


「…何駅過ぎてる?」 「…5か6」

「無理じゃん…もう10時なってるし…」


 優奈ゆうなはスマホを見ながらそう呟いて、親に連絡していた。遅れる連絡はしていたけど、多分送り迎えの電話かな?


美琴みこととお兄さんも一緒に乗る?」

「あ、うん! 邪魔じゃなければ…」 「おっけー」



 こうして、グダグダしつつこの件は終わりを迎えた。

 私も優奈もお兄ちゃんもあの偶像との関わりはないし、後日あの神社に行けば偶像は置いてあった。


 夏休みはそのまま過ぎていき、部員で遊びにいったときに皆に今回の事を話し、封印が解けるのはいつになるかわからないけど、あそこにはとりあえずもう行かないほうがいい、と言うことになった。


 学校が始まってもいつも通りで、先輩達は出会うことが少なくなった。それでも、あの夏合宿の事があったから、ラインも残ってるし時々全員で遊んだ。


「…」


 あの時お兄ちゃんを諦めなくてよかった。

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