第5話



「…あれ? ここは…」


 光に包まれたと思った瞬間、気が付いたら海辺にいた。

 反対側は堤防で森の様な山になってるのはわかったが、こちら側は白い砂浜に青い空、キラキラと光る海はとても夏らしさがでていた。


「(…嘘だ)」


 そよ風も波の音もあるが、夏らしい太陽の暑さもないし、まるで物語の中にでも入ってしまったかのような不自然さがあった。

 まだ、アレから逃げきれてない。あの中にまだいるんだ。


「…優奈ゆうな


 もしかしたら優奈ゆうながこの場所にいるかもしれない。そう思って、歩き出した。


「…? ……え、うそ、」


 どれだけ歩いても変わらない景色に飽き飽きしてきた頃。

 キラキラとする海に似合わない黒色が見え、違うと願いながらも走って近づいた。そこには、じゃばじゃばと海の中に入っていく優奈ゆうながいて。


「なっ…! 何して、優奈ゆうな!!」


 声をかけても、優奈ゆうなは必死そうに海の中に入って行って。


「(なんで…もしかして、声が聞こえてないの…??)」


 優奈ゆうなの向かう先には何も見当たらなくて、後を追って走るが砂辺はやはり走りにくく足がとられて、その間も優奈ゆうなは奥に進みお腹辺りまで来ていた。

 優奈ゆうなは泳げないし何なら浮くことすらもできないから、もしこけたりしたら溺れる危険性が高かった。それ以前に危険な魚がいる可能性だってある。


優奈ゆうなっ…!! 危ないって! 戻って!! 優奈ゆうな!!」

「――と、な…」


「っ…! っ優奈ゆうなッ!!」 「おわっ!?」


 追いつくと優奈ゆうなは何か言っていて。明らかに何かがそこにいるかのように話していて、とりあえず正気に戻そうと手を思いっきり引くと、態勢が崩れたのか倒れこんできたため、溺れないように足に力を入れつつ優奈ゆうなを支えた。


「っみ…美琴みこと? なんで…」

「それはこっちのセリフだよ!! 何度呼び掛けても気づいてくれないし、優奈みこと泳げないでしょ?!」


「え…?」


 どこか呆けていた優奈ゆうなに大声で話しかけても、なぜか後ろを向いてしまって。とりあえず引き上げないと、何かいたり大きな波が来たら終わる、と思って優奈ゆうなを引っ張った。


「とりあえずあがるよ!」


 掴んでる優奈ゆうなの手は冷たくて。この海を本物だとでも思ったのかな?

 少し経つと、無言でついてきていた優奈ゆうなが話しかけてきた。


「ごめん、美琴みこと…ありがとう」 「大丈夫」

「あ…お兄さんは?」 「もう助けたよ」


「え…どうやって?」

「チケットを一枚使ったの、私と優奈ゆうなならどうにかできるって思って」


 先ほどまで真面目だったから表情や顔に出にくかった優奈ゆうなが、素直に表情に出してるから集中が切れたんだな~と少し笑いそうになった。

 なんでだろ、優奈ゆうななら1人でも大丈夫って思ってたのが馬鹿らしくなったのかな。


「そ、っか…」

「っはあ~やっとでれた…もお、何であんなとこいたの?」


「あー、これ」 「? あ、私の…」

「…でも、どうしよっか。ここから出る方法…」


 砂浜に上がると、服装はやっぱり濡れてなくて。水の中では確実に濡れてた感覚がしてた分、奇妙な感覚だった。

 優奈ゆうなに手渡されたソレに、思わず一瞬動きを止める。…これのために、溺れる危険を冒してくれたのかな?


「濡れてない…」 「現実の海じゃないんだと思う」

「なるほど? よかった~」


「どうしよっか、とりあえず歩く?」


 いまだに少しボケっとしてる優奈ゆうながまた離れないように、手をギュッと掴んで近くの階段から堤防の上にあがれば、先ほどまでは確かになかったはずの鳥居と階段が、目の前の道路を挟んで森側にあった。


「!? これ…夏合宿の時の…?」

「…なら、ここに手がかりがあるかも」


 2人で階段に近づいて階段の上を見ると、見覚えのある神社があって。あの場所だと完全に理解したと同時に、ここから出る為の手がかりじゃないかと思った。


「…また、ここ登るのか…」


 思わずつぶやいた言葉に、優奈ゆうなは同意してくれた。あの出来事があったからか、階段を上る度にあの時のことが鮮明と思い出せた。


「…大丈夫?」 「っえ?」

「いや…なんか、ボケっとしてたから」


「…あ、大丈夫…」


 考えない様に振り向けば、綺麗な海と空を背景に、優奈ゆうなが階段をぼけっと見つめていて。手を掴む力を少し強めて話しかければ、こちらをぼけっとして見ていて。

 なんか…めっちゃ可愛い…?? 言葉に出さないように再び階段を上り始めると、優奈ゆうなが話しかけてきてくれた。


美琴みこと」 「なに~?」

「今度遊びいこー? 夏休みなのに今んとこ全然休んでないじゃん」


「あっははw、いいね! 部員でいこ!」

「えっ、やった~!」


 真面目な雰囲気ではないが、いつも通りの緩い雰囲気で緊張がほぐれた。

 意外と私も緊張してたらしくて、まあ夏祭りみたいな所や時間制限がありそうな駅のホーム等、気を抜いてたら危なかった所ばっかだったしなぁ、と思った。


「罠とか…何もなさそう?」

「…願い事するの待ってるとか?」


「! それまで閉じ込めるつもりなのかな?」 「さあ…」


 階段を登れば、記憶通りの神社があって。あの偶像もあり、朝みた景色と同じ。

 定番なら向かうまでに何かあるけど…と思って気を付けながら言うが、優奈の言葉に納得した。


「…ん~、これって壊していいのかな?」

「…わかんない、でもこれって封印されてる状態なんだよね? 封印が解けちゃうかもしれないし…危険じゃない?」


「あ~そういえば…なら、あの水晶は? あっいや、アレの世界だし消されてるか」


 偶像の前でそう駄弁りながらも、私達の間には穏やかな空気が流れていた。


「…まあ、どっか持ってく?」 「んー…っ”!?」

「!? どっ、どうしたの?!」


 私は触るのはダメと言われてたので優奈ゆうなが触るのをそのまま見ていると、触った瞬間バッと手を離し触った手を庇った。


「…はは、やばあ…。…なんかさ、邪悪なのが封印されてるって言ったじゃん?」

「うん?」


「……封印が解けかけてるせいで、触れた所に何か変なのが付いてる感じがして…」

「大丈夫なの?」 「うん、美琴みことは触らないでね」


「…ねえ、何で私は触っちゃダメなの?」


 余裕なさげに笑う優奈ゆうなの顔は一瞬狂気的な感じがしたが普通に聞けば、少し間が開いててから答えてくれた。そんなのがあるなんて知らなかった。もしかして朝もそうだったのかな。なんで…私に負担をかけない為?


「いや…もしお兄さんが願い事してたら、血縁者だし…飲み込まれて消えちゃったりしそうで怖かったから」

「あ……そうだったんだ、お兄ちゃんに聞いとけばよかった」


 そっか、ホラゲーとかって血縁者とかそういう系多いしね。なんだ…私が居なくならないかって思ってだったんだ…。…お兄ちゃんに聞いておけばよかった。

 そう思ってると、なぜか突然周囲がふわっと光の拍子になっていく。


「へっ、うわっ!?!」 「っ!」


 突然の事にさっき偶像触った時に離された手を掴むと、意識はなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る