第9話「雪合戦の後処理とか」

俺が佐々木からの羞恥心ビームに苦しんでいたころ、茂たちは職員室に御呼ばれされていたようだ。

しかも、教室にいた全員が。

一学期始まって早々にほとんど全員がご氏名を頂くとはね。こんなことは史上初めてなようだ。お前たち。学校日誌に名を刻んだな。

とか思ってたら、俺も佐々木も呼ばれていた。は?

訳が分からんまま職員室に行くと、クラスの奴らが出てきた。

俺らを見つけるなり

「あっ!やっと来た。」

「遅ぇよ。もうお説教は終わったよ。」

「お前らだけ逃げやがって…」

ごめん。一旦君たちの周りにある黒いオーラを払ってもいいかな?

「だって俺関係ないし…」

「知るか!」

「同じクラスだという時点で関係はある!」

うわ。ひっどーい。理不尽。

「いや、お前たち、佐々木をいじめるのはよそう。」

「おい、茂。いじめられてるのは俺なんだが。佐々木はとっくのとうに逃げてるんだが。」

「俺たちは悪いことをして怒られた。だけど佐々木は何もしてないんだから怒られる必要はない。だろ?」

「あのー聞こえてますでしょうか?」

「これ以上佐々木をいじめるのはよそう!」

そう言って、茂は手に持った紙を上にあげた。

「茂、その紙は何?」

「ああ、これか。これはな、この時期はものすごく希少な、反省文を書く紙だ!」

「あんまり誇らしげに言う内容じゃないぞ?希少だってことは恥ずべきことだからな。」

「とにかく!」

「とにかくの声が大きいのは気のせいだな?」

「とにかく!俺たちは先生に怒られて反省文をもらったんだ!一学期中に!

珍しいことだぞ!歴史に名を残したんだ!」

「本音は?」

「やり過ぎてるのはわかっていたけど、流石に一学期から先生に怒られるのは辛い。」

ふむ。あの茂や龍人がしょげてるんだ。よっぽど叱られたのだろう。

俺、行かなくてよかったわ。

「あと、反省文を書かないといけないのも辛い。何書いたら良いかわからないんだよな。」

「口喧嘩めっちゃ強いのに?」

「口喧嘩に論理は必要ないんですー。ガッとグッと押し込んだ方の勝ちなんですー。それはそうと、何書いたら良いか教えてくれよ〜。カシえも〜ん」

「国語、受験者平均点より4点下で入ってきた算数小僧に何か用があるのかな?しげたくん?」

茂が、チッっと舌打ちをしてから

「相談する相手間違えたな」

とかほざいた。その通り。

「けどお前以外に頼れる奴がいないんだよ−!」

ほう。なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

「龍人も森山もみんなアイデアが浮かばなくてさ。」

ほう。完全に蛇足だったな。

「アイデア考えてくれたら今回お前らだけ来なかったこと許してやるよ。」

「俺関係ないんだけど?」

「関係ないやつだってきたんだぞ!」

そうだそうだ!と、茂の後ろから腕が上げられた。

「だいたい、お前に俺を許す許さないの権利があるのか!俺は考えんぞ。

そんな暇があったら中間の勉強をしたほうがまだマシだ!」

「OK。わかった。」

そう言って、茂はおもむろにポケットからスマホを出した。

そして、ラインを開き、文字を打ってから俺に見せつけた。


『ウキャキャでワキャキャな学年LINE』

「今日、うちのクラスが職員室に呼び出しくらってた時、学級委員が恐れをなして一人だけ職員室こなかったんだよね。そのくせ反省していないようだし。

こういうのどう思う?あえて名前は言わないけどさ」


「待て!これは語弊を招く言い方だ!俺が関与していないのを書いていない!意見が偏り過ぎている!」

「それってあなたの感想ですよね?」

「グフゥ!そっそんなこと言ったらお前のだって感想だろうが!」

「ええ。感想ですとも。俺がラインで何言ったていいでしょうが。それを見て何を思うかだよ。情報を受け取る側の問題だよ。これ以上は。それとも何?そこまで過保護をしようと。ふーんなるほどね。」

「たしか法律では、こういうやつには一撃入れてもいいんだよな。」

「うっわ!バイオレンス!サイテー!」

「…考えさせて頂きます。」

「その答えを待っていたよ。」

ちょっとブラック企業の社員の気持ちが分かった気がした。



「…ばら。柏原!おいポンコツ!」

ん?なんだ?この罵声は?

「お前車内で上を見上げてんじゃねえよ!12分も!同じ格好で!」

「ん?あ!ごめんごめん。」

「どうした。なんか考えてんの?お菓子をお得に買う方法とか。」

「いや、ちょっと鬼殺呪術の続きが気になって。」

「そんなことだと思ったよ。」

「失礼な。ホントはな…そうだ!ブラック会社の社長に押し付けられたタスクについて考えてたんだよ!」

「もろ今考えたな。」

「そうだ!頭のいいお前なら反省文考えてくれるよな!」

「は?なんで俺が?あの場にいなかったから書けないよ。」

「頼む!って、なんで反省文と聞いて驚かないの?」

「だって俺あの話聞いてたもん。」

「ですよね。もう何聞いても驚かんわ。忍びだよね。完全に。」

「お褒めに授かり光栄です。」

「けど、俺だっていなかったのはいっしょなんだよ!頼む!アイデア考えてくれ!」

佐々木は、暫く考えたあと、はあっと溜息をつき、

「わかったよ。しょうがないな。考えてやるよ。」

「っ!ありがとう!」

俺の気持ちが、予防注射を指す予定だったのに、刺さなくてよくなったときのような気持になった。

だから、

「ただ、どんなアイデアだったとしても何も言うなよ。」

という佐々木の声が聞こえていなかった…。

こうして、晴れて俺と茂は職員室に呼ばれたのだった。
















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猿山学校の日常と非日常 オッパっピー @hobi4649

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