第8話「雪合戦 猿山バージョン・結」


俺は、ちょっと教室の様子を見てみることにした。

巻き添えを食らう可能性は99.99%なのだが、ハイリスクハイリターンって成功した人は言ってるし。

リターンがなんもないじゃないかって?馬鹿をおっしゃい。

他人の不幸は蜜の味、ってね。


どうやら先客もいたみたいだ。教室の扉の近くだとそこにいることを知られるのでみんな壁に引っ付いて聞いている。

今ここに何も知らない人がやってきたら110番に電話をかけるだろう。

俺もその怪しい一団に紛れ込む。

ふと、みんなが紙コップを持っていることに気づいた。

「おい、なんで紙コップを持ってるんだ?」

「フッ、これはなぁ我が組きっての秀才、中西裕也様ご考案の紙コップ型盗聴器なのだよ!」

どうやら、隣の組の人もいたみたいだ。

隣の奴はそう言ってこの一団の中で一番異質なやつの方を向いた。

その異質な奴は両手を腰に当てて胸を張った。

何が異質かって?

いや…こういうのもなんだけど、こいつだけぽっちゃりしているのだ。そして身長が低い。体の周りにムチムチという効果音が飛び交っているように思える外見をしている。

そいつが胸を張るポーズは中々にユーモラスで、笑いをこらえるのが大変だった。

「おい、何笑ってるんだ!」

訂正、こらえられてなかった。

「ふん。そんな態度ならこの秘密兵器貸してやんないから!」

「けっ、別に要らないし!」

俺は壁にそのまま耳をつけた。

これでも十分よく聞こえるし。別にあんなの欲しくもなんともないんだし。

そんな風にいじけていると、手刀で首を叩かれた。

急所にあたった!100のダメージ。カシワバラは瀕死になった。

振り向くと、佐々木が立っていた

「おい、何してんだ!」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ。」

「…ドクンドクン言ってるぞ。」

「比喩って知ってる?」

「何それオイシイノ?」

「…お前、本当はわかってるだろ」

「えっ、ナナナなんの事かな〜」

今は心臓はバクンバクン言っているのだが言わないでおこう。

佐々木は、一瞬違う生物を見る目(害虫を見る農家の目といった方がよりリアルに伝わると思うが悲しいのでやめとく)で俺のことを見ていたが、

壁の反対側に黙ってもたれかかった。

一、二分間の静寂が訪れた。

佐々木はそのまま黙ってもたれかかってるっぽい。

時々カシャカシャという音がなるけれども。

ちょっと俺は心配になってきた。

かかと落としされて、謝られてもいないと流石の俺でも拗ねるだろうな。

佐々木も拗ねたから何も喋っていないのではないだろうか?

フッ、しょうがない。オレにも非はあるしな。

「おい、佐々木。今教室で何が起こっているのか教えようか」

「いい。」

即答。悲し。

しかし、ここで折れる俺ではない!

「いや、教えるよ」

「いや、いい」

「教えるって」

「だからいいって」

「お前ら!教室で何をしてるんだ!」

先生がそう言って殴り込んできたのはつい先程のことだ。

その声に、さっきまで俺の投げるびわをレーザーボールがわりにわきゃわきゃしていたクラスメイト達はいっきに静かになった。

「窓の外に出てるやつ!危ないので降りてきなさい!」

俺と龍人と森山はすごすごと窓から降りた。

「なんでビワを投げてるんだ!食べ物で遊んではいけないと習わなかったのか!」

「いえ、習いました。」

「じゃあなんで投げたんだ!ビワが食べ物だとは知らなかったのか!」

「知ってました。だから一個食べました。ちょっと渋かったけど美味しかったです。」

「そういうことを言ってるんではない桐山!」

龍人が水を抜かれたスポンジのように萎んでいった。

「そして西村!お前はまた問題を起こして…いいと思ってるのか!」

今度は矛先が俺に向かってきた。

「いや、悪いことをしたとは思っています。」

「じゃあなんでこんなことをしたんだ!」

クラスの奴らも俺の方を見ている。

俺の前に怒られそうなヤツいるわ。ヤッフィー!

という気持ちが見て取れる。お前らなぁ…。

しょうがない。俺は、伝家の宝刀を抜く。

学校日誌に書かれている尾籠螺錬其壱(おこられんその1)


ジャンピング土下座‼︎‼︎‼︎


「申し訳ございませんでした!」

先生はこの大技の前に、一瞬引き、

「っ、しょうがない。反省してるようだから許そう!次はないからな!」

そう言って先生は教室から出て行った。(出る途中で驚いて廊下を二度見していたが、なんでだろう?)

兎にも角にも、こうしてお説教は終わったのだった…。


時は遡り少し前。教室で起こったことを教える教えないでもめていた時だ。

「教えるって!」

「いや、いい。

「教えるって!強情なやつだな!」

「いや…、全部聞こえてるし」

ん?

「ドユコト?」

「教室で起こった出来事は俺にも聞こえてたってことだよ。なんでそんなダサい格好で聞いているのかな?変質者かな?って思ってたんだけど。」

中西組と俺は一斉に佐々木の方を向いた。

「嘘だね。信じない。これが必要なかっただなんて。」

「俺も信じないぞ!」

みんなで佐々木に詰め寄った。

すると、

「申し訳ございませんでした!」

という茂の声が聞こえた。

中西組は突然全員で壁に紙コップを当てた。同じ声量だと気づいたのかうるさくなくなった。

そして、教室から出てきた先生にその様子を二度見され、黙って教室に帰っていった。

ちっ。あんま怒られなかったじゃねえか。

それはそうと、俺は佐々木に向き直り言う。

「なんで普通に聞こえたって言わなかったんだ!俺は拗ねてるんだと思ったぞ!」

「なんでって、そりゃ復讐のため。」

あっ、やっぱ拗ねてたんすね。

「安心して、お前のかっこいい姿勢も写真にとってあげたから。」

そう言って、俺の顔の前にスマホをずいっとだしてきた。

壁に耳を当て、興奮した面持ちの俺が映し出されている。

やめて。見せないで。反省してるから。


ハイリスクハイリターン?冗談じゃない。

ベリーハイリスクローリターン、受けるダメージは半端ねぇ





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