第25話 食堂での一時
外の景色が
ルドは夕食のために食堂へと足を運んでいた。
「うぅぅぅ」
食堂に入ると机に突っ伏したまま動かず、唸り声を上げているエリナの姿が目に入る。
「お疲れさま。大丈夫か?」
エリナの向かい側の席に座り声を掛ける。
「大丈夫じゃないです……」
返事はあるが、余程疲れているのか突っ伏したままエリナは動かない。
「何があったんだ?」
「ジークさんが……」
エリナの返答はそこで途切れたが、そこまで聞くとおおよその検討は付く。
恐らくジークにしごかれたのだろう。
「今日は癖を直すだけじゃなかったのか?」
早朝のやり取りを思い出しながら、エリナに尋ねる。
「そうなんですけど。染みついた癖を短期間で直すには、新たに癖をつけるのが一番早い! と言い始めまして、マナが枯渇するまで術式構築の練習をさせられました……」
「うわぁ」
想像していた何倍もハードな内容に思わず同情してしまう。
マナが枯渇するまで。それはつまり足が動かなくなるまで走らされるのと同じようなものであり、マナが完全に枯渇するのは生命活動に支障をきたすほど危険なことだ。
その地獄のような内容の話に気の利いた返しが浮かばず、沈黙が流れる。
「そういうルドは今日、何を?」
顔を上げ、沈黙を破ったエリナは疑問を口にする。
「あぁ。書斎で本を読んでた」
「そうですか」
ルドが答えると興味をなくしたのかエリナは再び机に突っ伏した。
「……」
特段話して面白いことをしていた訳ではないが、この素っ気なさは酷い。
そうして机に突っ伏して動かないエリナと少しの沈黙を共にしていると、奥からジークたちがやってきた。
「まだ、倒れているのか。明日からが思いやられるな」
そう言って椅子に腰を降ろすジークにエリナが反応する。
「明日もやるんですか……」
「当り前だ。魔術なめんな」
ジークたちのやり取りを見て、ふと疑問が浮かぶ。
「今さらだけどさ。どうしてジークは俺たちが魔術を知らないって分かったんだ?」
そう。一度も言ったことは無いはずなのにどうして今日の朝、「魔法と魔術の違いすら理解していない断ってどうする?」と言えたのだろうか。
「なんだ、そんなことか。簡単な話だ。僕が魔術と口に出しても合わせて来なかった」
ジークは当然のことだと言うように答えるが、正直まだ理解できていない。
「つまり、有識者どうしか判断する時に使う暗黙の了解というやつだ。有識者同士なら魔術と言えば魔術と返してくるが、知らない人間は魔法と言ってスルーするか、魔術って何? という反応になる。たまに無知なのに合わせてくる変人もいるがな」
そこまで説明されてようやく納得がいった。だが、
「それはおかしくないか?」
その場合だと相手が無知だった場合、魔法と言って相手に合わせる方が自然なはずだ。
「ジークが一貫して魔術と俺たちに言っていた理由に説明がつかなくなる」
「そのことか……まず、そうだな。僕は天才なんだ」
「「は?」」
ジークの突然の言葉に理解が追い付かなくなる。
「いや、待て。エリナ、君には魔術を教えているから分かるだろ。そんな目で見るな」
先ほどまで机に突っ伏していたエリナもいつの間にか話に参加し、進んでいく。
「不本意だが、この説明の方が早いんだ」
「……」
ジークの弁明を沈黙で流し、ルドたちは話を促す。
「で、それを念頭に。魔術関係者が僕に会いに来ることがある。普段は突っぱねていてるんだが今回の君たちは、策を
そこでだ。と言いジークは本題に入る。
「敢えて魔術と言い続けることで、お前の素性は分かっているぞ。と暗に相手を脅すことにした。もちろんはったりだがな」
ジークの話を聞き、ようやく納得がいった。
魔術と言い続けることで相手の素性を知ろうとしていたわけだ。
つまり、最初ジークが異常に冷たかったのもこれが原因だったのかもしれ……いや。あれは素だな。
そんなことを思いながら話を聞いていると、ジークは横に座るエルシアの頭を撫で始めた。
「お兄ちゃん、やめて」
エルシアにきっぱりと断られ、ジークは項垂れる。
「まぁ、こんな態度だが僕にはたった一人の家族だからな。この命に代えても護る義務がある」
「流石に過保護じゃないですか?」
ジークの話を聞き、エリナが触れてこなかった所に踏み込む。
「そうか? ……いや。この話はよそう。話を戻すが、魔術と言って合わせて来なければ魔法で合わせるのが一般的だから覚えておくと良い」
そう言うとジークは話を終わらせて席を立ち、厨房へと行ってしまった。
魔界の侵略者 玻璃跡 紗真 @hariatosyama
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