You Rock!!!

aoiaoi

You Rock!!!

 ある夜、深夜0時。

 ある国の片隅のアパートの一室。

 ある男のパソコンから、小さくあの音が鳴り出した。

 手拍子と足踏みで刻む、あのリズム。

 隣の男のスマホからも、あのシャウト。

 二人は顔を見合わせ笑った。


 我々は、立ち上がる。

 泥で汚れたあの壁を、倒す。

 倒さねば、前に進めぬ。

 倒す! 倒す!! 倒す!!!


 男たちは、水面下である計画を仕掛けていた。

 その日、計画通り、国中のSNSアカウントから同じ音が響き出した。

 あの手拍子と、あの足踏み。噛みつくようなあの歌声。

 国中の無数の賛同者が同じ曲をツイートし、互いにリツイートし合う。その全てのツイートに、「立ち上がれ」とハッシュタグが付いている。

 仁王立ちしたボーカルが観衆へ向け力強く歌う動画が、途切れることなくタイムラインを埋め尽くす。

 反撃の手拍子と足踏みが鳴り響く。


 みんな、どうした。怒ることを忘れたのか。

 怒れ! 立ち上がれ!


 計画を知らずにいた街の人々は、この動きに驚いた。

 そして気づいた。

 怒りを示さないことこそ、真の悪なのだと。


 この動きは瞬く間に巨大な渦に育ち始めた。

 これまで長く黙らされていた人々の起こす怒りの渦は、もはや容易には押さえ込めない。


 為すべきことを見失った愚者たちよ、自分のしたことを振り返れ。

 どれだけの人間を踏みにじり、苦しみに陥れたか、思い知れ。

 逃げるな。

 もう逃げられない。


 あの壁を、打ち倒す。


 倒す! 倒す!! 倒す!!!

 倒す! 倒す!! 倒す!!!


 パソコンから、スマホから、抗議の音が鳴り止まない。

 とうとう街中にあの足踏みが響き出した。

 四方八方から、音と振動が攻め上げる。


 なあ、黙ってる場合じゃないだろう。

 今怒らずに、一体いつ怒る?

 怒れ! 怒れ!! 怒れ!!!

 病を防げ。個々のまま繋がれ。

 武器は使うな。解決になどならない。

 倒せ! 倒せ!! 倒せ!!!

 言葉が通じぬならば、この轟音で打ちのめせ!!!

 この手拍子と足踏みで地面を揺らせ!!!


 は? 今すぐやめろ? やめなきゃ逮捕だ?

 笑わせるな。俺らはリズムに乗ってるだけだ。

 そのくらい、わかんだろ?

 わかったら今すぐ失せろ!!





 ある日、とうとう音は鳴り止んだ。

 人々の作った巨大な波動は、遂に分厚い闇をぶち抜いた。

 どす黒く汚れた壁を粉々に飛び散らせて。


 微かな光の差した静かな空を、人々は大きく仰いだ。

 画面越しに繋ぎ合ったその手を、離さないまま。




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