安易に飛びつくことのできる正解をくれないことの気持ちよさ

 ある日、突然神の声が聞こえるようになった少女の、起こした奇跡の一部始終、およびその後の影響までを描いた物語。

 章ごとにさまざまな人物が登場する歴史ものです。
 自分(このレビューを書いている私個人)はまったく歴史に明るくないため、登場人物や当時の社会情勢等はさっぱりわからないまま読みましたが、それでも大変面白く読めてしまったのがもうすごい。
 物語の筋を読むのに最低限必要な情報はほとんど作中に含まれており、その上で知識や教養があればなお楽しめる(きっともっと見えるものがありそう)というところが魅力的。

 何が好きってもう『幕間』です。
 あんなお話のど真ん中に、まさかあんな強烈な形で(だってさっきまで歴史やってたのに急に「20××年 日本某所」!)、ほぼ剥き身の「何(What)」が差し挟まれることの、このえも言われぬ爽快感たるや!

 それまで歴史ものとして、人物の行動や結果に解釈を与える物語のように読んでいたものが、この変拍子で一気に緊張感を増して、そしてそこからの後半二章。
 もう最高でした。こんなにも静かで分量も短いのに、もう無限に染み出してくるこの異常な読み出!

 すべての立場にすべての判断や選択があり、物語そのものがどこにも寄り掛かることのないことの心地よさ。いやより正確に自供するなら、「それをそう読んでいる」という自負に覚えてしまう、何か作品へのおかしな共感のようなもの。
 なんだか心のずるい部分を刺激されるような感覚が心地よい、骨太で厚みのある佳作でした。