万雷の拍手が鳴り響きます。
一日に一回程度、〈コール・ゴッド〉を使って円環の女神を呼び出します。
神官たちの熱狂は凄まじく、私はすっかり聖女の地位に収まっています。
そんな私は豊富にある自由時間を使って古代語の書物を読み漁り、神殿にある地位ある者しか閲覧できない書物を読んだりしながら、工房に出向いては情報交換して、王城にお呼ばれしてはロレンス様とお茶を飲みながら雑談をしたりして過ごしています。
最近は貴族たちも神の声を聞いてみたい、と喜捨が増えたと同時に〈コール・ゴッド〉の場に貴族が紛れ込んだりしていますね。
円環の女神の念話は神々しい意思を叩きつけるようにして行われるため、何のスキルがなくとも神の声だと分かるそうです。
そんなこんなで季節ひとつ分くらいを聖女として過ごした私は、遂にロレンス様と結婚する日がやって来たのでした。
* * *
白いヴェール、白いドレス、白い手袋に白い靴。
花嫁の衣装には細かいレースがふんだんに使われており、なるほどこれが世の乙女が憧れる新婦というものか、と私もテンションがやや高めになっていたり。
領地から上の兄であるウード兄さんも駆けつけてくれています。
というか主だった貴族はほとんど参列しているのではなかろうか。
さすがロレンス様の結婚式、規模がデカいこと。
今日の結婚式は王都の神殿を貸し切りにして行われます。
結婚式のプログラムには、途中で〈コール・ゴッド〉を披露する幕もあるようで、王妃となる私の立場を確固たるものにしようという王族の意思が反映されているようですね。
バージンロードを父と歩きます。
神殿長の前には白いタキシードを着たロレンス様が待っていました。
ていうかこんなに大勢の前で誓いの接吻を交わすのでしょうか?
恥ずかしいですね。
神殿長が祝詞を唱えます。
「汝らは夫婦神アルジェイラに誓い、病める時も健やかなる時も、互いを愛し合い、助け合うことを誓いますか」
「誓います」
「誓います」
「宜しい。では新たなる夫婦の誕生の証を――」
来ました。
近いの接吻です。
ロレンス様と向かい合います。
そっとヴェールを持ち上げ、――唇を重ねました。
万雷の拍手が鳴り響きます。
あーちょっとどころでなく恥ずかしいですよこれ!
「本日は特別に新婦より、神の祝福を得たいと思います。準備は整っていますか?」
「はい。では――〈コール・ゴッド〉」
自分を塗りつぶしていく円環の女神。
さすがに慣れてきました、この感覚。
《本日はめでたい日。新たなる夫婦の門出なり》
ざわり。
列席している貴族たちが驚きとともに円環の女神の念話を受け取ります。
《我は円環の女神。特定の過去と未来を司る神の一柱。新たなる夫婦を祝福しよう》
円環の女神の祝福の言葉は短いものでした。
しかし列席していた貴族たちには十分でしょうし、心身に負担のかかる〈コール・ゴッド〉を持続するのは大変なので、これでいいのです。
女神の気配が消え、身体が動くようになります。
「聖女フーレリア様の未来に女神より祝福を得ました。ここに新たなる夫婦の誕生を祝いましょう!」
神殿長の口上で、結婚式は終わりました。
ひとまず神殿での式が無事に終わって良かったですね。
あとは王城で行われる披露宴です。
さあもうひと頑張りですよ!
* * *
後世の歴史家は賢王ロレンスを支えた王妃フーレリアの功績を挙げる。
時空魔法を使いこなし僻地への視察を可能にし、迅速に国内を回ることが可能となったのは、賢王ロレンスにとって非常に大きな助けとなった。
またこの賢王ロレンスの在位中はこの国では例外的に神殿との関係が良好であったことも見過ごせない。
王妃となる前に神降ろし〈コール・ゴッド〉を使えることから聖女としての地位を与えられていた王妃フーレリアの存在が、善きかすがいとなったのは言うまでもないだろう。
王妃フーレリアは迷宮都市に転移して、工房を切り盛りしていたそうだ。
そこでの稼ぎは国家予算からすれば微々たるものだが、利益で孤児院を運営していたことは有名な話だ。
かくして賢王ロレンスの治世は穏やかに、後年に影響を与えるほどの隆盛を誇ったという。
王妃フーレリアは影に日向に夫を支えたと言われている――。
婚約破棄から始まる迷宮都市での錬金術師生活 ~得意の古代語翻訳で裏技錬金術を駆使して平穏に暮らします~ イ尹口欠 @14ibuki
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