ついでに本屋にも寄りますかね。
神殿長から工房に出掛けても良いとの許可を得たので、いま私は迷宮都市にいます。
聖女になったので、護衛としてハンネリースも一緒です。
「お姉さま。シルビーナさんがやって来て、ガトーショコラを食べていきましたよ」
ホルトルーデが私が不在の間にあった出来事を語ってくれます。
なるほど、新しいお菓子がまた必要になっているのですね?
ドッペルレリアは私と同じ知識を持っていますが、新しいお菓子をどうするかの決定権はやはり本体である私にあると考えているようで、勝手な真似はしないでおいてくれたようです。
……別にお菓子くらい、勝手に新しく作ってもらっても構わないのですけどね。
私は久々に迷宮都市を歩くことにしました。
ひとり歩きはもうできません、ハンネリースを伴っての買い出しです。
ついでに本屋にも寄りますかね。
「やあお嬢ちゃん。最近は忙しいのかい。なかなか顔を見る機会が減ったようだけど」
「ええ。少し多忙でして。今日は多めに古代語の書物を購入していくつもりですよ」
「そいつはありがたい! お嬢ちゃん以外に古代語の書物を買ってくれるお客さんはいないからね!」
砕けた態度の本屋さんにハンネリースが眉をひそめていますが、ここではただのフーレリア。
侯爵家の令嬢でもなく、王太子殿下の婚約者でもなく、聖女でもない、ただの錬金術師として来ているのですから、これでいいのです。
古代語の書物を三十冊ほど見繕って、ハンネリースに渡します。
後でこっそり〈ストレージ〉に収納してあげましょう。
* * *
新しく作るお菓子は、シュガーラスクです。
これはパン屋さんで購入してきたバゲットを切っておきます。
次にザラメを錬成しましょう。
手順はカステラのときと同様ですね。
素材はカラメルと砂糖です。
カラメルは予め鍋で砂糖を煮立てて作ります。
カラメルと砂糖を錬金釜に投入し、かき混ぜます。
大して魔力を注ぐ必要もなく、ザラメが出来上がります。
次は切ったバゲットとザラメ、バターを錬金釜に投入してかき混ぜます。
魔力を程よく流し込みかき混ぜれば、シュガーラスクの完成です。
非常に簡単に作れるので、量産も苦にならないでしょう。
アツアツでサクサクのできたてシュガーラスクをみんなで試食します。
「美味しいです、フーレリア様。錬金術でお菓子を作っておられると聞いてはいましたが、これならば王都でも売れるでしょうね」
ハンネリースも気に入ってくれました。
ただ工夫に乏しいため、シルビーナさんは不満を抱くかも知れません。
そこでもう一品、用意することにしました。
今度はパセリを刻み、にんにくを投入するガーリックラスクです。
お菓子ではなく酒のつまみですけど、別にウチの工房、お菓子屋さんじゃないのでアリだと思います。
二種類のラスクの作り方をホルトルーデに教えてから、古代語の書物をスロイス先生とインプくんに渡します。
仮面をつけたドッペルゲンガーとスペクターであるスロイス先生、悪魔のインプくんを見てハンネリースがこわばった顔になっていますが、じきに慣れることでしょう。
古代語の書物から一冊を抜き出して、神殿に戻ります。
夜中に読書する時間くらいはあると思うのですよね。
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