昔話

むかしむかし。


とある山奥に、小さな小さな村がありました。


そこに住む人々は、木を切り、小さな畑を耕し、とても平和に暮らしていました。




そんなある日、村一美人な娘の元に、一人の麗しい青年が現れました。


青年は娘と共に暮らしながら、村人を集め、様々な薬の知識を話して周りました。




そんなある時、庄屋の息子がひどい病にかかりました。


息子は青年に教えてもらった通りに薬を飲みましたが一向に病は治らず、


息子は数日にわたってもがき苦しみました。




やっとの思いで病を治した彼は、青年の正体が恐ろしい鬼であることを知りました。


青年に化けた鬼が、薬として皆に話して周っていたものは


実は鬼が美味しく人間を食べるための、ただの味付けだったのです。


彼は必死で鬼がどれほどずる賢いかを村中に知らせました。


村人たちは鬼を大層恐れました。




そんなある日の夜遅く、鬼と娘の住む家から火の手が上がりました。


味付けが進まなくなったため、まずは娘から食べようと思ったのでしょう。


鬼は娘の家を燃やし、恐ろしい声をあげて吠えました。


幸いにも村人が娘の家に駆けつけた時には、娘は火傷もなく無事でした。


鬼は村人から逃げるように、恨めしそうに山に姿を消しました。




しかしそれからしばらくして、娘以外の村人たちは、流行病に冒されていきました。


村人たちは、怒った鬼が病を撒き散らしているのだと恐れました。


そこで、鬼とともに暮らしていた娘を、鬼の逃げた山へと泣く泣く差し出しました。


すると不思議なことに、その数日後、流行病は綺麗に消えてしまいました。




恐ろしい鬼は、その後二度と村には現れず


村人たちは、以前と変わらぬ暮らしを続けることができましたとさ。


めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼の薬 群青 @Indigo0927

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説