物語が進むにつれて、楽し気な雰囲気の中にありながら、詳らかになって行く主人公達の過去と、その周囲に絡み続け、断ち切れない何か。
過去と現在が繋がり、人と人ならざる者との間に築かれてゆく縁(えん)と情。
その結び付きと共に、怪異と対峙して行く主人公達の未来は何処へと帰結し、そして原点となる過去とどう向き合う事になるのか……。
読者は、抜群の筆致で描かれる世界にのめり込み、いつの間にか物語の中を共に歩む事になる。
そして、目の前で展開されて行く楽し気な日常とは裏腹に、怪異との邂逅に驚き、その存在に恐怖し、そして主人公に救われた自分に気が付く。
そう、この物語を読みながら、読者の後ろに現れているかも知れない怪異を、主人公は消し去ってくれているのだ……。
そんな思いを持ってしまう程の、リアルな日本古来の怪異の世界と、軽快な探偵物を読んでいる様な楽しさ、その両方を体感できる秀逸な作品です。
滑らかで読み易い文章のお陰で、描かれている世界へとスルスルと落ちて行ける、重厚でありながら軽快な物語。
まだ手に取って居ない方は、ぜひご覧あれ。
磨糠 羽丹王(まぬか はにお)
覚(サトリ)という妖怪をご存知でしょうか。
相手の心を読む力を持つと言われ、戦おうにも悉く行動を読まれ、攻略が大変難しいことで有名です。
昨今は妖怪に限らず、異世界物の神様や強敵の魔王様なども同じような読心術は普通にスキル化されているので、皆様も攻略するのは大変な思いをしてらっしゃるのではありませんか?
もし自分にそんな力があったらどうなんでしょう?
様々な場面で、最初は面白いと思うのです。
でも、すぐに虚しくなるはずです。
対人関係も維持が難しいと思います。
バラしても黙っていても、真っ当な付き合いはできない。
好きになった人の心情が全て聞こえてしまう、これってある意味、地獄なんだと思います。
さて本作は怪異や異能、妖怪と言った普遍的なテーマであるにも関わらず、大きく感情移入できる理由が二つありました。
一つは、便利な「力」に対する葛藤がしっかりと描写されている事。
もう一つは、等身大の主人公である事。
異能を手に入れると何故だか戦いに巻き込まれるケースは多く、もちろん本作でもその流れはあります。
ただ、胆力や体力は普通の人間です。
包丁を持った人間だって怖いのに、その相手が妖怪だったら絶望してしまう。
そんな当たり前の人間がきちんと描かれています。
痛快に戦うヒーローと違い「力」に真摯に向き合って問題を解決する姿勢がとても好ましい。
だからこそ、魅力的な仲間が彼の周りに寄り添う説得力に繋がっているのだと思います。
物語は現在16話。
大きな試練を乗り越えましたが、いつかは「力」を精算する時が来ると予想されます。
そのためにも、今一度、覚(サトリ)の攻略方法を考えておきましょう。
私の知る必勝法は「衝動」つまりカッとさせたり混乱に陥らせてしまえば良いと聞いた事があります。
なので、読んだ相手をドン引きさせるほどの妄想力を鍛えておこうと思います。