「雨降り小僧…」

低迷アクション

第1話

「雨がしとしと降り始めて、現れるのは雨降り小僧…なんてのは、水木先生の著作にも、

出てくる話ですね。キツネの嫁入りも、考えてみれば雨の日です」


今のように、外出が自粛される前、参加した妖系即売会での打ち上げ時の事、何度目かの

席交代で隣に座った男が、こんな切り口で話を始めた。


私の地元は、山深い土地にある小さな農村でしてね。雨は、恵の雨なんて言いますが、私等の村では、よくないモノ達と村を繋ぐキッカケ、仲介役のようなモノを担っていたんです。


勿論、この令和の時代に?なんて話だと思いますよね?村には電気に、コンビニ、Wi-Fiだって入ります。


ですが、雨が降ると駄目だ。屋根を叩く雨音が響き始めると、もういけない。そーゆう時、村の人間は黙って、家の戸に鍵をかけるんです。仕事は切り上げ、悪い時なんか、そのまま職場に泊まる事もある。とにかく、雨が降ったら、止むまで、車内とか、いや、建物の中の方が良いらしいですね…じっくり待つのが基本なんです。


だから、私達の村には、雨具が無いんですよ。


えっ、一体、何が出るかって?わかってます。今からそれを話そうと思っているんですよ。



 私はつい2年程前まで、自身が住む村の役場に勤めていました。村の習わしは知っていましたし、やはり、地元ですからね。生まれ育った町に貢献…


すいません、何だか面接の志望動機ですね。まぁ、とにかく、勤務していた訳なんです。

雨の話だって、少し気にするだけで良かったし、今はスマホで雨雲レーダーとか、とても

便利ですからね。難なく対応が出来ていました…


あれは、そう、このくらいの時期でしたね。梅雨明けで、少し油断していた私は、突然降り出した雨に、役場の玄関で立ち往生していました。いつもなら、確認する、この村に住む

なら、必須のスマホ天気予報は、生憎、外れたようです。


少し、考えましたが、駐車場は目の前、家まで10分とかからない距離です。そもそも、

雨の日に、外に出て障りがあった話なんて、聞いた事ありませんでしたし、家族や友人も


“雨の日は不味いけど、まぁ、農作業も、仕事も休めて丁度良し”


などと、言っていたくらいで、新しい移住者の方とかもいたんですけど、何となく守っている、それくらいの意識でした。だから、あの日の私は、本当に、ツ・イ・て・な・か・っ・た・ん・だ・と考えています。


暗闇と雨音が広がる外に足を進めた時、初めはドキドキしましたね。考えてみれば、雨の日に外に出るなんて、初めての経験です。異常に聞こえるかもしれませんが、私達には、それが日常だったんです。


歩き始めたら、何の事は無かったですね。体は濡れましたが、むしろ、それが心地よいくらいで…


“やっぱり、只の言い伝え”


今度から、堂々と雨の日に歩いてやろう。そう思ったくらいです。更に私を勇気づけたのは、

役場周りを歩く人の姿が転々と見え始めたからです。何だかんだ言って、皆出てるんだなぁ‥って感じで、安心しました。


1人、2人、3人、夜と雨のせいで視界は悪いですが、何人もの人の姿がゆらゆらと

見えていました。


あれっ、可笑しいな?と思ったのは、人の影が揺れ過ぎだと言う事です。

雨の日の外出経験が無いため、慣れてなかった事もありますが、それにしても、可笑しい。

動くたびに全身が煽動しているみたいな…


ようやく気付いた時は手遅れでした。


とゆうか、手遅れになるくらいまでにアイツ等がすぐ側まで来ていたのです。


役場の入口に足を踏み入れた“人だと思った者達”の全身は何て言うか白っぽい、脂肪の塊みたいなモノでした。衣服は身に着けておらず、女か、男かもわからない。


そいつ等がグズグズ体を揺らしながら、こちらに迫ってきます。

悲鳴を上げた私は、車までの残りの距離を一気に走りました。


震えと焦りでドアにかけた手は、滑り、一瞬の出遅れを作ってしまいました。

寒気が走る私の腕を、横から迫った奴等の1人が掴みました。


全身に火傷をしたような痛みと、何か柔らかすぎるモノに包まれた感触が走り、私は懸命にそれらを振り切りながら、車内に体を滑り込ませ、車を発進させました。


何処をどう通ったかわからないまま、気が付けば、実家の庭に車を乗り上げていました。


家族や友人、上司に私が見た事を話しました。ですが、彼等は村の決まりを破った気後れから見た幻覚だと言って、取り合ってくれません。


だったら、雨の日に、外に出て見ろと言っても、誰1人、出る者はいなかった。無論、私も、あの出来事以来、雨の日の外出は絶対にしませんでしたが…


悪い事は続くものです。あれに掴まれた手に妙な腫物ができてしまって、村の医者に診せても、わからない。


だから、休暇を取って、都内に出てきたんです。大学病院とかなら、この腕を治せるんじゃないかって…その帰りに、こちらに寄りました。


最初にも申しましたが、水木先生が伝承から、漫画にして現した豆腐小僧の正体は、あれだったのかも…いえ、そもそも、雨の日に外を歩く者達…貴方にも覚えがありませんか?


傘をさして歩く自身の前を歩く人が、本当に同じ人間か?何故、あの人は傘を差さないのか?それともさす必要がないのか?


今日も降っていますね?雨…都会だからと言って、安心はできない。アイツ等は

雨の日を好む。貴方も気を付けて、今日はお帰りなさい。それでは、私はこれで…


えっ?先程、飲み物を来た時に、私の手に触れた?…ああっ、気にしないで下さい。

これは仕方のない事です。


あの日以来、駄目なんですよ。雨が降ると…


外に出たくなってしまってね…(終)

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「雨降り小僧…」 低迷アクション @0516001a

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