リビングの扇風機の羽ばたきは悲しむ彼女に笑みを取り戻すか?

夏。グルグル運転中の扇風機を真っ向に臨んで喋る。声が変わって面白い。
子どもの頃の懐かしい思い出ですか? それとも今もやっていますか?
何にせよ、風を全身に浴びながら奇妙な自分の声を聞く文化を知ってる人なら一風変わったこの短編にもスルっと入り込めると思います。

何しろ本作の主役は扇風機で、ヒロインは宇宙人。こちらを真っ向に臨んでそう名乗るんだから間違いありません。お話は扇風機が幼いご主人=宇宙人の抱える辛さに真っ向からぶつかり、何かしてあげたいと思ったとき、自分の意志では何一つできない道具に何ができるのか……という感じ。

扇風機により語られるこの物語は、非生物の目で世界を見るおかしみがあり、またご主人に懸命に仕える健気さもあり、作者様の温かな眼差しを奥底に感じるような良さを味わえました。そして、人生のどこにでもあるような日常の一コマを扇風機の視点で記すことにより、思わず心動かされる素晴らしい短編小説として仕上がっています。
是非貴方に読んで欲しい、とても愛らしい物語です!